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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第2章

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53/124

準備

「ただいまー……って、誰もいないか。やっぱり早すぎたみたいだな」


 教場には瑠凪以外誰もいなかった。

 一度スマホを確認するも、特に連絡は入っていなかったようで、机の上に置く。


「ふわぁ…………寝るかあ」

 

 まだ1時間は誰も来ないだろうと予測し、机の上に寝転ぶ。

 生ぬるい風が眠気を誘い、彼が意識を手放すまで、そう時間は掛からなかった。




 教場の扉が開く音がした。

 しかし、それはできる限り音を立てないように配慮されたものだったため、瑠凪の意識を覚醒させるには至らない。

 現れたのは一人の女子生徒。

 瑠凪を起こさないよう静かに扉を閉めると、出来るだけ忍足で彼に近付いていく。

 時間をかけて目の前まで辿り着くと、寝息を立てている瑠凪の顔に影ができないよう、慎重に覗き込む。


「あぁ……」


 漏れ出した声は、感激に溢れていた。

 

「やっとあなたの元に……。長いまつ毛も、髪の痛み具合も、手に浮かぶ血管も、遠くから見ているだけでは分かりませんでした……」


 それは尊敬というより、崇拝の念が抱かれている。

 横たわる瑠凪に対して指を折って手を組んでいることからもそれが読み取れるようだった。


「どうすればあなたにもっと近付くことができますか? もちろん、遠くから眺めているだけでもこの上なく幸せです。……しかし」


 急に声色が落ちる。悲しみと、もう一つ別の感情が含まれているような。


「しかし、あなたの周りにいる女たちが邪魔で仕方ないのです。下賎な者と会話していると神の権威が失墜してしまうようで、どうしても耐えられません」


 もちろん、寝ている瑠凪から答えは返ってこない。

 だが、それでも女子生徒は嬉しそうに頷いている。


「……やはり、やはり私が行動するべきですよね。私に啓示を授けてくださったあなた。あなたに不釣り合いな者たちは、私が排除します」


 そう告げると、彼女は無音で立ち上がり、扉のほうへ歩いていく。


「それでは、またいつかお会いしましょう。……古庵瑠凪様」


 女子生徒が去っていった。

 今は眠っている男の呼吸音が聞こえるだけ。

 再び教場は静寂に包まれることとなった。

 瑠凪が目を覚ましたのはその30分後、スマホに着信が来てからである。




 鉄琴だか木琴だかを叩いているような軽快な着信音が聞こえて目が覚める。


「あーーー、誰だよ気持ちよく寝てたのに……」


 いつまでも天井を眺めていたかったが、俺を呼び出す音がうるさい。

 重力が増したように感じながら上半身を起こし、隣の机に置いていたスマホを手に取った。

 画面には山本蓮という名前が。


「あーい、どうした?」

「古庵、今どこにいる?」


 何か良い情報を得たのか、その声は若干弾んでいた。


「KLの教場にいるよ」

「じゃあ今から戻る。ちょっと待っててくれ」


 通話が切れた。

 俺はスマホを隣の机の上に置いて、もう一度横になる。



「古庵! いるか!」

「……いるよー」


 5分後、蓮が教場に到着した。

 急いだのか息が上がり、顔は蒸気している。


「早かったな」

「櫂がめちゃくちゃ呆気なくてな。そっちは?」

「あぁ、いくつか櫂の友人から聞き出せたぞ」


 メモでもしているのだろう、蓮は自分のスマホを取り出すと、それを見ながら言葉を続ける。


「まず、蓮は安田先輩と白峰さんと二股してるのは間違いないらしい」

「そうみたいだな。本人はどっちも遊びみたいだけど」

「白峰さんは知ってたけど、安田先輩まで……?」


 自分より格上の相手を踏み台だと思えるなんて見上げた根性だ。

 成長する人間にはハングリー精神が必要だし、彼の言うことにも一定の根拠はあるのだろう。

 だが、だとしてもそれを他人にひけらかすのは違う。

 あくまでも努力は陰で行うものだからだ。

 そして、得られるものも自分の心にしまっておくべきである。

 努力できる人間、そして継続できる人間はとても少ない。

 成果を見せびらかしていると、要らない恨みを買うことがあるしな。

 努力がバレるのは、それによってもたらされた結果が明るみになってしまった時でいい。


「あと、俺はもう一つ聞き出せたぞ。あんまり大切なことじゃないかもだが……」

「もう一つ?」

「櫂の友達が言うには、あいつは誰か狙ってる女子がいるようなんだ。それも、恋愛的な狙ってるじゃなくて、自分を怒らせたやつへの復讐……? そんな感じらしい」

「復讐……」


 きっと、櫂が俺に言おうとしてやめたことがそれだろう。


「その相手が誰かはわからないのか?」

「いや、そこまではそいつらにも分からないらしい。でも、相当キレてたみたいだぞ。もしかしたら暴力も辞さないかも……って」


 今の彼の標的はその女子なのだろう。

 そこまで怒りを買うなんて、一体どんなことを――。


「おい古庵、どうした?」


 その時、俺はこの上なく晴れやかな気分になっていた。

 探し物をして引き出しを開け、物を散らかして、それでも見つからない。

 しかし、最後の最後、散らかしたものでそれを作り上げることができた。そんな感覚だった。

 もっと分かりやすく言うと、俺が作り上げた城が鎧を着込み、さらに屈強になったような。


「……いい解決策を見つけたぞ。明後日が勝負の日だ」

「あ、明後日!? 突然だな……」


 狼狽える蓮を横目に、決戦の日に向けてやらねばならないことを整理する。

 あいつを上手く動かすことができれば、きっと成功する。

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