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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第2章

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進展

 最寄駅に着く。

 結局、七緒の最寄りまで送って行くことになったため、予想以上に帰りが遅くなってしまった。

 都会とはいえ、日付が変わりそうな時間帯には人が少ない。

 人通りの少ない道をのんびり歩き、自宅マンションに到着。

 ポストを確認し、休んでいたであろうエレベーターを叩き起こす。

 機械の駆動音を聞きながら目を瞑っていると、自室が目前まで迫っていると、エレベーターの音が知らせてくれた。

 箱から出て、ぎりぎり人二人が通れる通路を進むと、見慣れたドアが見えてくる。

 ――が、しかし。


「はぁ…………またか」


 ドアノブには、同じく見慣れてきた「差し入れ」が、つまりビニール袋がかかっていた。

 袋を手に取ってみると、ずっしりとした重さが右手にかかる。


「いって」


 プラスチックが変形する音。

 思わず手を下げたことで袋を落としてしまった。

 手首の調子はだいぶ良くなったと思っていたが、重いものを持つのは厳しかったみたいだ。

  毎回のように2lの水が入れられているのを忘れてしまっていたのも良くない。


「あぁー腰が痛い……」

 

 通路にはビニール袋の中身が散乱してしまっている。

 それをかき集めようとかがんだ時、一枚の紙切れが目についた。

 手にとって、両面を確認してみる。


「これは……やっぱりあるよな」


 お約束となっているメモである。

 今までの内容を思い出してみるが、どれも俺の身を心配するものだった。

 ならば今回も……と考えるのは当然だが、実は俺は、このメモに書かれている言葉の予想がついている。

 ゆっくりと四つ折りのメモを開き、美しく書かれているであろう文字を目に入れた。


「…………」


 紙をもう一度四つ折りに戻してポケットにしまう。

 左手でビニール袋を持ち、鍵を開け、家に入った。



 翌日。

 俺がKLの教場に着いた時には既に、七緒と蓮の姿があった。


「こんにちは先輩。いい天気ですね」

「元気か古庵。俺はこの上なく元気だ」


 七緒はもとより、今後の方針についての話し合いを行うべく、蓮にもKLの教場に来るようメッセージを送っておいた。

 俺より早くに着いて待っているとは関心である。


「おはよう。さっそくだけど、今後の方針について話し合おう」


 適当な椅子に座ると、二人も近づいて来て席に着く。


「……七緒、近い」


 そりゃあ話をするんだから遠くではいけないが、隣に来てほしいとは言っていない。


「良いじゃないですか。むしろ先輩の上に座りたいです」

「それはやめてくれ」

「積極的だな……」


 蓮が若干引いている。

 もう少し周りの目を気にしてくれないものか。


「まぁいいや。時間が勿体無いし始めるぞ」


 くだらないやりとりに興じるのも良いが、今日ではない。

 一息ついて気持ちを入れ替える。


「次の目的としては、櫂康晴に直接話を聞きに行こうと思う」

「それが一番手っ取り早いですからね。でも、本当のことを話してくれるとは限らないですよ」

「まぁな。多分、人一倍外分を気にするタイプだろうし」


 浮気をしているのかと問い詰められて素直に頷くような奴は、そもそも浮気をしない。


「直接聞きに行っても成果は薄いかもしれない。警戒される可能性もある。でも、自分の目と耳で確かめるからこそ分かることもあると思うんだ」

「確かにな。古庵は観察眼凄そうだし、浮気がバレちまった以上、今更警戒したところで穴がありそうだ」


 普段から細心の注意を払っていてこれなのだろう。

 櫂の危機回避能力は高くはない。

 穴を塞いでも別の部分に新たな穴が開き、そのループに陥るのが目に見えている。


「それじゃあ、俺は櫂を探して話を聞きに行く。七緒ちゃんは安田先輩と夕莉にもう少し話を聞いてみてほしい」

「わかりました。行ってきますね」


 七緒は軽く頷いた後、テキパキと荷物をまとめて教場から出て行った。

 今日の彼女は機嫌が良いようで、表情が少し柔らかかった。


「敏腕助手だな。それで、俺は何をすればいい?」

「……そうだな、櫂の周囲を探ってほしい。本人が尻尾を掴ませなくても、友達に自慢して話している可能性があるからな」


 ミスターコンに出るやつなんて、大体が自己顕示欲の塊みたいなものだ。

 友達にマウントを取るべく、どんな異性と遊んだか、何をしたかを包み隠さず解説しているはず。

 

「了解だ。……ちなみに、今更なんだけど一つ聞いていいか?」

「なんだ?」


 バツが悪そうにしている。どうしたのだろう。


「あのさ……櫂の顔、調べ忘れちゃって。どんなやつか知らないんだよな……悪い!」

「なんだ、そういうことか」


 調べておけよと思わないわけではないが、忘れることは誰にでもある。

 アプリを開き、検索履歴に残っている櫂のアカウントを出すと、スマホを上下逆さに持ち替えて蓮に渡す。


「ほれ、これが櫂康晴。かっこいいけど安田先輩に釣り合うかって言われたら微妙だろ?」

「あぁ……本当だ」


 静かに画面を見つめていた蓮だったが、だんだんと瞬きの回数が多くなっていき、落ち着きのないのが見てとれた。


「どうした?」

「……あのさ、こいつなんだけど――」


 彼が恐る恐る続けた言葉を聞いて、俺の脳内には一つの方程式が組み上げられた。

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