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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第2章

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酔い

「やーーーっと先輩の隣になれましたね。この時をどれほど待ち望んだか……」


 3度目の席替えののち、隣に座った七緒は開口一番こんなことを言ってきた。

 位置は変わったが席順は先程とほとんど同じで、またもや連は悔しそうにしている。

 

「クジひいてりゃほぼ確実に隣になれるんだから、そこまで切実に待たなくても良いだろ」


 というか、穴が開くほど見つめられていたし、実質的ずっと隣同士だったようなものだ。

 そう言ったら喜ばれそうだから胸の中にしまっておく。


「で、飲み会はどうよ。せっかく大学生らしいイベントなんだから楽しんでおけよな」


 やるべきことはやって、もう気にすることもないし、あとは自由に過ごすとしよう。

 他の参加者を遠目に見ながら七緒に聞いてみる。


「今だけ楽しいですぅ〜」


 妙にふにゃふにゃした返答。

 

「そりゃあ、誰とも話す気なさそうだもんな」


 気を遣って声をかけられることもあったが、無視か速攻で会話が終わる返事をして終了。

 これじゃあ楽しいものも楽しくならない。


「先輩以外と話しても無駄ですから。ゼミみたいに最低限会話しないといけないわけじゃないですしね。むしろ、もっと束縛してくれてもいいんですよ? 先輩が望むなら、一言たりとも異性と話しません」

「彼女でもないのに束縛するってヤバすぎるだろ。オレンジの服着たデカい小学生でもわきまえてるぞ」

「……もしかして、告白してって暗に言ってますか? すみません、配慮が足りずに――」

「違うわ」


 彼女じゃないから束縛しないが彼女だったら束縛するに変換されるってことか?

 トンデモ解釈すぎるだろ。


「先輩ったら私のこと見てすらくれませんしぃ〜。悲しいんですけどぉ〜」


 甘ったるい声で七緒がしなだれかかってきた。

 それでも適当に相槌を打ちつつ視線を旅立たせていると、突然腿のあたりをまさぐられる。


「お前、何やってんの?」

「宝探しですぅ〜」

 

 俺の身体は海でも砂漠でもないはずだが、宝とやらを求めるその手はだんだんと内側に――。


「待て待て。そこに宝はないぞ」

「あ〜、先輩やっとこっち向いてくれましたねぇ〜」


 変態まっしぐらの手を止め、たまらず七緒の顔を見ると、顔は火照り、眠たそうな目をしていた。

 身体もゆらゆらと揺れているし、明らかに普段の彼女ではない。


「もしかして……」


 急いで彼女のグラスを手に取る。

 これが酒だったら大変だ。

 可能性は低いが、どこかから大学側に情報が漏れればKLの活動停止にも繋がってしまう。

 七緒が自分から酒を飲むタイプには思えないが、グラスを鼻に近づけて匂いを確認する。


「…………普通にコーラだな」


 微塵もアルコールを感じない。正真正銘、ただのコーラである。

 しかし、どう見てもシラフではない。

 ということは……。


「七緒、空気で酔ってんの?」

「なに言ってるんですかぁ? 酔ってないれすけど〜」


 だめだ、呂律も怪しいし、完全に酔ってしまっている。

 それにしても、よく誰も酒を飲んでいない席で酔えるな。


「全然いつも通りですよぉ〜?」

 

 にへらと笑いながら、俺の手の甲に指をくるくると這わせてくる。

 ……待てよ、計算高い七緒のことだ。

 酔っていれば怒られないだろうという考えの元、演じているだけかもしれない。

 演技かどうか確認する必要がありそうだ。


「ちょっと手借りるぞ」


 一言断って彼女の手首の脈を測る。

 酔っていると脈が速くなるとどこかで読んだことがあったからだ。

 とはいえ、素人に脈の速さなどわかるはずもなかった。


「……あっ」


 次は首を触ってみる。


「先輩、くすぐったいです……」

 

 脈が速くなる他に体温が上がるらしい。


「…………ふむ」


 若干熱い気がするな。

 やはり、空酔いしているのだろう。

 まぁ、いつからこの状態だったかわからないが、他の参加者が気づいてない以上、軽度のものに違いない。

 とりあえずこのまま適当にあしらって、飲み会終わりにまた様子を――。


「……お?」


 そこでいきなり思考が途切れた。

 俺の身体が突然倒れ……違う、倒されたからだ。


「せんぱぁ〜い」


 目の前には七緒の顔。


「どうして俺は押し倒されてるんだ?」

「だってぇ、あんな風に触られたらスイッチ入っちゃいますよぉ〜」


 いつぞやのカフェのような状態ということか。

 起きあがろうとしても、予想以上に七緒の力が強くて動くことができない。

 公衆の面前でこれはまずいし、誰かに引き剥がしてもらおう。


「おい、楽人。ちょっと助けて――」

「おぉ〜い! 二人とも盛り上がってんねぇ! ふぅ! やっちゃえ!」


 忘れていたが、こいつは七緒と同盟を結んでいたんだった。


「……夕莉、助けてくれる?」

「任せなよ、こういうの慣れてるから」


 そう言って夕莉はこちらへ近付き、赤ん坊をあやすようにして七緒を引き剥がしてくれる。

 飲み会の盛り上げ担当ということもあって、回数をこなしているのだろう。

 酔った人間の扱いを心得ているのだ。


「んーーせんぱぁ〜い……なんで離れちゃうの……」

「今近づいたら危なさそうだからだよ」


 ずり落ちたメガネを上げながらぐずる七緒。


「しばらくこの子の面倒見ててあげる。私はもう結構楽しんだし」

「そうか? 悪いな」


 お言葉に甘えて七緒を預けることにした。

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