馴れ初め
「それでは今から120分間の飲み放題となります。時間が近付いてきましたらラストオーダーのご注文うかがいに参りますので、それでは〜」
システムの説明が終わり、ついに飲み会がスタートする。
それぞれ最初に注文したドリンクが行き届き、喧嘩していた二人も含めて場が静まった。
「よし、今日は集まってくれてありがとう。それじゃあ、かんぱ〜い!」
各々声を出し、グラスを傾ける。
ちなみに、今回はみんなソフトドリンクで統一してもらった。
大体のメンバーはまだ未成年だし、酒が入ってはマトモに話さない可能性がある。
「「…………」」
もう会は始まっているのだが、驚くほど盛り上がっていない。
席順としては、テーブルを正面に捉えて左側、手前から順に俺、楽人、蓮。
反対に右側の手前から順に七緒、紫、安田、白峰だ。
犬猿の仲の二人が隣あっているし、他の男子陣は気の強そうな女子陣に対して腰がひけている。
……何かした方が良さそうだ。
「いろんな人と話した方が楽しいだろうし、定期的に席替えしない?」
「おぉ、いいなぁ!」
すかさず楽人が賛同してくれる。
「いいかも。アタシもこの席嫌だと思ってたし」
「初めて気が合ったかもねぇ私もこの席嫌だったんだ〜」
常にばちばちしてるな。
好きな男も同じだろと突っ込みたかったが、ボコボコにされそうだからやめておいた。
「はーい。くじ作ったからこっから引いてね〜」
男子たちがナプキンでくじを作り、一人ずつ引いていく。
内容としては、1〜7まで番号が書かれていて、俺がいるところが1番、白峰がいるところが7番となっている。
「……3か」
俺が引いたのは3番。
蓮が座っているところだ。
「みんな引いたら席替えスタートね〜」
こうして新たな席順が決まった。
「よろしくね〜」
俺の隣に来たのは安田。
いきなり大変な席になってしまったようだ。
「突然だけどさ」
安田はこちらに身体を寄せ、耳元で何か囁こうとしている。
香水の甘ったるい匂いに気分が悪くなりそうだ。
「古庵君って、私のこと嫌いでしょ?」
「あ、はい」
あまりにも自然に聞かれてしまったため、こちらもサラリと応えてしまった。
やばいと思って取り繕うとするも、彼女は笑いながらそれを静止する。
「いやいや、知ってたから大丈夫。なんていうか、古庵君からは狙ってる目? みたいなのを感じないから」
俺は彼女のキラキラしたところが嫌いだが、顔面の良さは認めざるを得ない。
目は大きく、鼻筋はすっと通っていて、唇は薄い。素晴らしい造形だと思う。
彼女は常日頃から多くの異性からアプローチを受けているのだろう。
そのため、雄特有の視線のようなものを理解できるようにっているのだ。
だが、俺は彼女を異性として見てはいない。
「別に、嫌いだからって先輩の不利な方向に働くよう細工したりはしませんよ」
「分かってるよ。ただ聞いてみたかっただけだから」
「……そうですか」
怒らせてしまわないかヒヤリとしたが、どうやら大丈夫なようだ。
「今回の飲み会の目的なんですけど、安田先輩と櫂先輩のことを聞かせてもらって良いですか?」
どちらが本当の彼女なのか、どちらも本当の彼女なのか。または、どちらも彼女ではないのか。
何にせよ、正しい判断を下すためには情報収集が不可欠だ。
「うーんと……まずは馴れ初めとか?」
「はい。お願いします」
「まず、私たちはそれぞれミスコン、ミスターコンに選ばれたの。それは知ってるか」
紫から話を聞くまで知らなかったが、適当に相槌を打っておく。
「自分でエントリーしたんですか?」
「私は友達の推薦で、康晴は自分で立候補したんじゃなかったかな」
友達に推薦されてエントリーというのはよくある流れだが、櫂は自らエントリーしたのか。
自分がどこまでいけるか確かめてみたいという目的なら好感を持てるが、果たして真実はどうだろう。
顔の良い人間は、自分が顔が良いことを勘定に入れて動くことがある。
また、ミスターコンに出たことで自らに肩書きがつくため、それを利用して女遊びをしようと考えたのかもしれない。
「それで、コンテストはそれぞれ合同で宣伝するんだけど、その時私たちは出会ったの」
「写真撮影とかですか?」
「そうそう。他の候補者とも撮影自体はするから最初はなんとも思ってなかったんだけど、いざ会ってみると結構タイプだったんだよね」
一応、櫂についてはSNSで検索をかけておいた。
コンテスト参加者は各々SNSのアカウントを作るのが必須になっていて、情報化社会らしくそこでの宣伝や投票を行なっている。
櫂のアカウントのフォロワーは3000人ほど。
ツイート数は少なく、何かあれば自分の自撮りと共に投稿される。
顔面の良さを第一に競うのだから、これに不可解な点はない。
だが、対する安田のフォロワーは17000と、かなり差が開いている。
基本的に男性より女性の方がバズりやすいとはいえ、正直釣り合っていないような気もする。
櫂の顔も整ってはいるが、他の参加者の方が俺には魅力的に見えた。
……ということは、櫂には顔以外に魅力的な面があるのかもしれない。
「どっちが先にアプローチしたんですか?」
「それは康晴君。もう、最初に会った時からすごかったよ。それで、だんだん私もその気になっちゃって付き合い始めたの」




