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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第2章

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デート2

 最初に訪れたのはクラゲエリアだ。

 明かりのほとんどないくらい空間に、ライトアップされたクラゲの水槽が何柱も並んでいる。

 ミズクラゲやタコクラゲ、アマクサクラゲなどさまざまなクラゲが順番に、何色にも彩られていた。


「いきなりクラゲだなんて太っ腹すぎますね。水族館の目玉じゃないですか」

「否定はしないけど、もっと見たい魚とかいないのか? ちなみに俺はカエルが見たい」

「それも十分邪道ですよ」


 なんでだよ。

 見るからに毒がありそうなカエルって可愛くないか?

 腑に落ちない俺をよそに、七緒はクラゲに釘付けになっている。


「……海で泳ぐときは怖いけど、こうやってみると綺麗です」

「へぇ、七緒ちゃん泳げるんだ」


 完全な偏見だが、彼女は運動系はからっきしだと思っていた。

 サッカーボール蹴ろうとしてそのまま転びそうだ。


「失礼なこと考えてるのは分かりますよ。実はわたし、運動神経は意外といいんです」

「自分で意外って言っちゃってるじゃん」

「まぁ、自分が運動音痴に見えることくらい分かりますよ。見るからに文学系たおやか女子ですもんね」

「たおやか……?」

「たおやかっていうのは、動作とかが――」

「ああ違う違う、意味はわかってる」


 たおやかとは、姿や動作が美しい様のことをいうのだが、個人的にそこには優しさが含まれると思うのだ。

 だがどうだろう。

 彼女には優しさというより怪しさの方が――。


「いてっ」


 暗闇で見えないのをいいことに、軽いが鋭い蹴りが尻に飛んできた。



 クラゲを堪能したあとは、珊瑚と小さな魚が二十を超える水槽の中で漂っているエリアに到着する。

 先程までと打って変わって明るい空間で、生き物が本来持つ美しい色合いを楽しむことができた。


「……そういえば、どうして水族館に来ようと思ったんだ?」


 今更な気もするが、俺は誘われただけでその理由は聞いていない。


「どうしてって……先輩、水族館好きですよね?」


 何故分かりきったことを聞いているのか、という風な反応。


「確かに水族館は好きだけど、七緒に言ったことなかったよな?」


 俺が水族館が好きだというのは当たっている。

 高校生の時なんかは、たまに一人で行く水族館が心の支えだった。


「……それはいいじゃないですか。ミラクルってことで」

「七緒って好きな人とデートするときに奇跡に賭けるわけ?」

「それは……くっ、もちろん下調べは怠りませんが……! こういう時にだけズルいですよ」

「ズルいもズルくないもあるか。これこそが大人なんだよ」


 正確には20歳までもう少しあるが。

 あれ、今って成人年齢は18だったっけ?

 これ以上追求しても七緒が口を割る気配はなかったし、俺が楽しめるようにこの場所を選んでくれたのは伝わるので、素直に鑑賞を続けることにした。



 明るいエリアを抜けて階段を登った先には、再び暗い空間。

 数多くの熱帯魚が飼育されている他に、サメやエイが優雅に泳ぐ巨大な水槽が目を惹いていた。

 さらに、巨大な水槽は海底トンネルのように上部にも巡っていて、海底にいるような神秘的な雰囲気を醸し出している。


「エイの裏側って可愛いですよね」

「知ってるか? これって顔じゃなくて鼻なんだとさ」


 正確には鼻の穴と口だ。

 あと、尻尾には毒があるらしい。


「あ、チンアナゴですよ」

「……エイとかサメよりチンアナゴなの?」

「だって可愛いじゃないですかぁ。撫でたくなりません?」


 何を伝えたいのかわからないが、艶めいた表情で俺を見上げてくる。


「もしかして、前に本性バレちゃったから何してもいいと思ってる?」

「もしかしなくても、前に本性バレちゃったから何してもいいと思ってます」

「そろそろKLのブログ記事に痴女って書かれてもおかしくないよな」

「その時は先輩に全ての罪を被せるから大丈夫ですよ」


 試験対策みたいな軽さで人の人生を潰さないでほしい。


「ただ、前のキスは私の不意打ちだったから、次は先輩からしてほしいです」

「俺からすることはまずないと思ってもらっていいよ」

「先輩、最初から最後まで相手に動いてもらいたい派ですか? クズな部分が出てきちゃってますよ……」

「違うわ!」


 最近はなにかと会話を下の方に持っていかれて困る。

 しかも、そういう話が好きなのではなく、言葉に対する反応から俺を探っていそうなのが怖い。

 どれが本当の彼女なのか、正直まだ確信を持てないでいる。



 次に訪れたのは、コツメカワウソやペンギンがのんびりと暮らしているエリアだ。

 あとはアザラシが泳ぐ姿なんかも見ることができるんだが……。


「……交尾、してますね」

「…………してるな」


 ついに匂わせではない本格的な下が舞い降りてしまった。

 今まで上手く流していたのにどうしてくれるんだ。

 バレないように横を見ると、七緒が嬉しそうにこちらをガン見している。

 絶対に反応してなるものか。


「……先輩先輩」

「…………」

「私たちも大人ですし、目の前の光景から目を背けちゃいけないと思うんですよね」

「そういえば、七緒ってはっきりした顔立ちだけど、ハーフだったりするの?」

「ロシアのハーフです。それで、アザラシの交尾なんですけど――」

「ロシア!?」


 もしやと思っていたが、本当にハーフだったのか。

 しかもロシアだなんて……。


「ロシアで興味持ってくれました? ハーフで良かったことなんて人生でなかったけど、先輩がこれで興味持ってくれるなら捨てたもんじゃないですね」

「いや、別に興味は持ってないけどな? ただ驚いただけ――」

「先輩は知ってると思うんですけど、ハーフでも純日本人の女の子とは結構肉付きが違うんですよね」

「そ、それは……」


 思わず喉を鳴らしてしまう。

 彼女の言う通り、個人差はあれど、ハーフは日本人の子より良い意味で肉付きが良い。

 どちらが優れているとかではなく、骨格から違うんだよな。

 しかし失敗だった。

 俺の喉が反応してしまったことは七緒にバレている。

 身体は正直だなというやつだ……たぶん。


「あれあれ? 先輩、何考えてたんですかぁ〜?」

「ただアザラシの交尾を目に焼き付けてただけだが!?」


 精一杯のごまかし。

 しかしその瞬間、俺は敗北を悟った。

 周囲の人間が、汚物を見るような目で俺を見ていたからだ。

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