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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第2章

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デート

 普段の俺なら、休みの日にわざわざ同じ大学の女子とデートしたりしない。

 フェスに行くとか何かに並ぶとか、一人より二人の方が推奨される目的があるならまだしも、二人でいること自体を目的としているならなおさら行かない。

 ……しかし。


「こんにちは、先輩」

「……あぁ、こんにちは」


 面倒な事が起こるのが確定している飲み会までの時間を少しでも先延ばしにしたくて、気付けば七緒からのデートの誘いに乗ってしまっていた。

 約束の時刻五分前。

 俺の方が早いと思っていたが、彼女はしっかりと到着している。

 カフェに行った時とは違い、今日の七緒は大学でよく見かけるノーマルコスチュームだ。

 もしかすると普段見ている方が課金スキンの可能性もあるが、メガネを上げる癖が染み付いているのを考えると、こちらが基本形態で間違いないだろう。

 強いて違いを上げるとすると、服装に青が取り入れられていることだ。

 彼女にしては珍しく、身体のラインが出やすい青いマーメイドスカート。

 だが、その理由はすぐに理解できた。

 今から俺たちが向かうのが水族館だからだ。


「行くか。夜の飲み会まで時間があるとはいえ、のんびりしてるほど暇はないからな」

「そうですね。それじゃあ……はい」

「……ん?」


 こちらに手を差し出してどうしたのだろう。

 彼女に金を借りた覚えはないが。


「あ、わかりました。これで勘弁してあげます」


 そう言って七緒は腕を絡めてくる。

 服の柔らかい感触と、その下にある温もり。

 さらに、彼女の細身には似合わない部位が俺の腕を包み込んでいる。


「……えっちなこと考えました?」

「いや、全くの無反応だ」


 もはやお約束の舌打ちが聞こえたが、何事もなかったかのようにスルーして歩き始める。

 俺は一人で歩いている時のように遠慮なく足を前に出すが、七緒は特に無理して合わせている様子もなく、ピッタリと互いの歩幅が合っていた。


「まさか先輩がデートしてくれるなんて思わなかったです」

「あぁ、意外だったか? 確かに、普段の俺だったら確実に――」

「いえ、本当は今ならOKされるって分かってて誘いました。ゆえに意外性皆無です」

「…………そうか」


 どうしてここまで俺の思考が読まれているのか。

 彼女の無表情からは何も読み取れない。

 だが、今日のメイクがいつもと違うことには気が付いた。

 アイホールの目尻側半分が淡い青色で縁取られていて、海月のような透明感のある雰囲気。

 上向きのまつ毛が目を大きく見せるため、カッコ良くなりすぎない目元作りになっていた。


「ようやく気付きました? 今日は水族館イメージでメイクしてみたんですよ。クラゲの触手みたいなまつ毛とか言われたら刺しちゃうかもしれません」

「そんなタイムリーなディスり方しないわ。なんていうか、めちゃくちゃ似合ってるな。俺は結構好きなメイクかも」

「そう……ですか。ふふっ、嬉しいです」


 照れ臭そうな笑みに一瞬見惚れてしまうが、すぐに意識を戻す。

 助手であると認めてしまった以上、邪険に扱って日々を過ごすわけにはいかない。

 しかし、必要以上に親密になれば確実に厄介なことになる。

 あくまで後輩としての認識を忘れないようにしなければ。

 そんなことを考えながら歩いていると、早くも水族館が見えてきた。

 身も蓋もない言い方をすれば、巨大な白い豆腐。

 それが洒落た坂の途中にあった。

 白い豆腐と言ったが、夜には七色のライトが外観を照らし、ゲーミング豆腐へと早変わりする。豆腐だという事に変わりはない。

 入口はロボットアニメの機体の発進口ほどに広く、中へ進むにつれて薄暗い。

 しかし、仄暗い中を進んで自動ドアをくぐると、一気に解放感のある、真っ白な空間が広がっていた。


「無駄に広いな」

「券売機があんなに端っこにありますし、ここが広い意味がわからないですけど、意外と居心地いいですね」


 適当に相槌を打ちつつ、広大な空間の端っこにぽつんと設置されている券売機へ向かう。

 画面を操作して、大学生の欄にチェックをいれる。


「そういえば、もう高校生料金で買えないんですよね」

「映画観る時とかに実感するよな。社会人よりはまだ安いけど」


 よく一人映画に行く身としては、大学生料金の適応外まであと数年というのが恐ろしい。

 いつまでもリーズナブルに映画鑑賞を行いたいものだ。


「二人分で良いですよね?」

「もちろん。俺の後ろに何かついてきてる?」

「はい。とんでもないのが」

「マジで!?」


 振り返って確認してみるが、誰もいない。


「冗談ですよ。本当は先輩とわたしの愛の結晶がお腹に……」

「食べすぎ? ちゃんと調整しないと夜食べられなくなるぞ」

「……後で困ったことになっても助けませんからね」


 愛も知らないのに愛の結晶が誕生してたまるものか。

 互いに入場料を券売機に投入すると、発券口から二枚のチケットが飛び出てくる。


「先輩はどっちがいいですか? クラゲとナポレオンフィッシュ」

「クラゲの写真はわかるけど、ナポレオンフィッシュのチョイスが謎すぎない?」


 もちろん俺はクラゲ派……なのだが、女子がナポレオンフィッシュ好きとは思えないのでそちらを選んでおいた。

 手にしたチケットを受付で見せ、再び抱きついてきた七緒を横目に見つつ、ついに館内へと足を踏み入れる。

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