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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第2章

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偶然

「えっと、蓮。静香ちゃんがれいのナンパされてた子なのか……?」


 彼の反応から答えは分かりきっているが、一応確認してみる。

 返答は首を2回、慌ただしく縦に振るというものだった。


「マジか……」


 静香は間違いなくゆるふわ系女子だが、まさか知り合いが人探しの到達点だったとは思わなかった。

 無意識に対象から外してしまっていたことに今更気づく。

 これぞまさしく灯台下暗しというやつだろう。


「こ、古庵! やったな!」


 俺が動揺しているとは知らず、蓮が嬉しそうに背中をぽんぽん叩いてくる。


「あぁ、これでゴールにだいぶ近づいたわけだしな」

「最後の最後にこんな……やっぱり古庵すげぇな!」


 大興奮である。

 菜月はおろか、静香ですら目の前の二人が何を話しているのか理解していないが、それも当然のことだ。


「あのね、実は前に校内でナンパされてた女の子を探してたんだよ」

「……つまり私を?」

「そうそう」


 どんな理由で自分を探していたのか考える静香。

 やがて答えを見つけたように口を開いた。


「もしかして、その時ナンパしてた人を懲らしめたいとか?」

「あー、それも大切なんだけど、今回はそうじゃないんだよね」


 思わぬ飛び火を受けないように、いずれナンパ男も成敗する必要がありそうだが、今の目的は違う。


「その時ナンパされてた女の子を探しててさ。どんな出来事だったか、詳しく教えてほしいんだよ」

「あ、はい!」

「でもまさか、静香ちゃんが声をかけられてた子だとは思わなかったよ」

「私もびっくりしました。大学内であんな目に遭うなんて……」


 それから、静香はナンパされた時のことを詳細に語ってくれた。

 普段通りサークルへ向かう途中、彼女は何者かに声をかけられて立ち止まったらしい。

 相手は大柄の男性で、甘いマスクの持ち主のようだ。

 「静香が落とし物をしたのを届けにきた」という理由で声をかけてきたらしいのだが、彼女にはその心当たりはなかった。

 いや、心当たりがないからこその落とし物だと思うかもしれないが、落としたというハンカチを見せられても、それは彼女の所有物ではなかったのだ。

 そのため自分のではないという旨を男に伝えたそうだが、すると今度は、「一目見て恋に落ちた」と世間話に持ち込まれてしまったらしい。

 サークルの集合時間が迫っているため早々に帰りたがっていた静香だが、徐々に壁際に追い詰められていってしまい、逃げることもままならない。

 ……そんな時、彼女はこちらを見つめている蓮の姿に気がつく。

 二人の視線が交わることはなかったが、静香は蓮の視線や身体の動きから、助けに来てくれることを理解していた。


「……それで、今目の前にいる――」

「山本蓮だ。よろしく」


 そうだ山本だ。ようやく苗字を思い出した。

 喉につっかえた魚の骨が取れたような、そんなすっきりとした感覚。


「あ、逗子静香です。よろしくお願いします」


 律儀にお辞儀までしている。


「それで、目の前にいる山本さんが助けてくれそうだったんですけど、その時に――」

「そう! その時に麗しのあの子が突然現れたわけだ!」

「わかったから一回静かにしてくれ」

「す、すまん……つい」


 やっと想い人に会えそうだという胸の高まりが抑えきれないのだろう。

 だが、彼の昂りを放置していては、いつまで経ってもゴールテープを切ることはできない。


「ごめんね静香ちゃん。気を取り直して続きを教えてほしい」

「は、はい。山本さんが助けようとしてくれた時、む――」


 肝心な部分が聞こえるその瞬間、あたりに軽快な音楽が鳴り出す。

 ……自分のスマホに電話がかかってきていた。


「あー、ごめん。ちょっと待ってもらっていい?」


 今度は俺が邪魔をしてしまったようだ。

 気になる答えを先延ばしにして、応答ボタンをタップする。


「もしもし」

「……先輩ですか?」


 電話の主は七緒だった。


「俺のNINEにかけてるんだから、他に誰かが出るわけないだろ」

「すみません。先輩と通話できることなんてそうそうないから、夢かと思っちゃいました」


 まぁ、確かに日ごろ七緒からかかってくる通話は全て無視している。

 正確には、無視した後、忙しかった風を装って用件を聞いている。


「今日は無視しないでくれてるんですね」


 あ、バレてるんだ。


「……それで、どうした?」

「お客さんが来たから一度戻ってきてもらえますか? 新しい依頼です」

「わかった。今から戻るから待っててくれ」


 通話を切り、三人の元へと戻る。


「蓮、ちょっとお客さんが来たみたいだ。静香ちゃんの連絡先は知ってるから、また後で話を聞くって形でいいか?」


 どちらも二つ返事でOKしてくれたため、ひとまず蓮を連れて教場に帰ることにした。


「マジで、こんな奇跡的な展開があるなんて思ってなかったよ」


 教場へ向かう途中でも、蓮は心ここに在らずといった感じで浮ついていた。

 俺の方も、一週間ほどの努力がついに報われそうで、達成感が湧いてきている。


「もう少しだな。頑張ろう」

「あぁ! どんな名前でどんな子なんだろう、楽しみだなぁ」


 二人で想像話に花を咲かせつつ、教場の目前まで迫る。

 アクシデントでも起こっているのか扉の外にまで声が漏れ出していて、人数は二人。

 七緒の声はしないため、依頼人が二人、もしくは静香の時のように付き添いがいる可能性が高そうだ。

 しかし、いざ扉を開けてみると、そこにいたのは七緒を除いて三人の女子。


「いや、あなたが悪いんだよ?」

「アタシ? 言いがかりはやめてほしいんだけど?」

「はぁ!? あのねぇ、元はと言えばあなたが――」


 今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうな二人の女子。

 そしてそれを傍観しているのは――。


「あ、古庵くん久しぶり。あれ、そっちの人って……」


 静香に続き、またも見覚えのある顔が。

 音羽紫である。

 そして、その視線の先にいた蓮。

 彼の顔が茹蛸のように真っ赤になっていたことで、俺は気付いてしまった。


「……卒論はのタイトルは『人間社会の大きさと世間の狭さ』にしようかな」

「法学部って卒論ないですよね?」


 冷静な七緒のツッコミも耳に入らず、俺はため息をついた。


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