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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第2章

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作戦

 凛が出て行ってからすぐ、蓮が教場にやってきた。


「よ、よお……。なんか、来る途中にボロボロの西堂先輩を見たんだけど、何かあったのか……?」

「…………いや、特に何もなかったよ」


 しっかりと姿を見られていたようだ。

 まぁ、学内の有名人が死にかけで歩いていたら当然か。

 KLに変な噂が立たないといいが。


「それじゃあ、今日も探しに行くか」

「悪いな。よろしく頼む」

「ただ、探し方を変えようかなって思ってな。今までは、れいの女の子を探してただろ? でも、どんなに探しても見つからなかった。もしかしたら、その子は大学をサボりがちなのかもしれない」


 大体一週間は同じ場所で女子生徒を探した。

 それでも見つかる気配すらないということは、大学にいること自体が割とレアケースの可能性があるということだ。

 あとは就活中の四年生のパターンもあるが……。


「その子は四年っぽかったか?」

「いや、私服だったし……今思い出したんだけど、髪も染めてた……気がするし、同い年かひとつ上なんじゃないかな」

「髪を染めてた……?」


 ここにきて新たな情報を手に入れることができた。

 髪を染めているのなら、企業面接を控えているわけではなさそうだ。

 多様性の時代なため、染髪が許される社会人も増えてきたが、ひとまず候補から除外する。

 これで、全身を見る必要はなくなった。

 多くの生徒の中から、頭部が目立つ者をピックアップすれば良いだけだ。

 しかし、「染めていたような気がする」という言葉が気になる。

 インナーだけ染めてるとか、そういうタイプなのかもしれない。


「まぁでも、あんまり大学に来ないならそもそも探しても意味ないよな」

「あぁ。だから、今日からは助けられた女の子の方を探してみようと思う。その子だったらもっと記憶に残っているはずだし、もしかしたら連絡先くらいなら交換してるかもしれない」

「おお! なんだか希望が見えてきたな!」



 こうして、恋愛成就のための次の作戦が決まり、俺たちは校内を巡ることにした。

 ちなみに、七緒には教場で待機してもらっている。

 2度あることは3度あると言うし、今日中に誰かしら訪ねてくる気がしたからだ。


「……とは言ったものの、助けられた方の女の子も情報が少ないんだよなぁ」

「俺が覚えてるのは、顔と髪型、あとは服装のタイプだけだな」


 助けた方の女子より個性が薄そうだし、こちらの方が見つけにくいかもしれない。

 しかし、探してる途中に本命に出会えたら御の字だし、対象が増えれば確率も二倍……くらいにはなると思う。


「あのさ」


 あの子は違う、この子は違うと観察している時、ふと蓮が声をかけてきた。


「今日がダメだったら、あとは俺一人で探そうと思う」

「え?」


 彼の方を見てみると、いつにもなく真剣な表情。


「もう一週間もこうやって無駄に時間を使わせちゃってる。見返りはいらないってサークルの方針だろうけど、これ以上は悪いからさ」


 分かってはいたが、根がすごく真面目なのだ。

 きっと、毎日俺たちを連れ回すことに罪悪感を抱いている。

 

「……そうか」


 七緒からストーカ……人探しの極意を聞いたことだし、きっと彼は一人でも探し出せるだろう。

 依頼人が独力でやると言っているのだから、俺が引き止めるのもおかしい。

 だからといって手を抜くわけではなく、今日中に相手を見つけるつもりで気合を入れる。


「なら、今日こそ見つけないとな!」

「そうだな! 古庵に手伝ってもらったのを無駄にしないためにも頑張るぜ!」


 妙な連帯感が生まれ、先程以上のペースで生徒探しが進む。


「ゆるふわ系……あの子はどうだ?」

「もうちょっと背が低かった気がするな」

「じゃあそっちの子は?」

「あー、系統は同じだけど違う子だな」

「それじゃあ……」


 あたりを見回している時、何かが引っかかったような感覚があった。


「あ、ちょっと待っててくれ。知り合いを見つけた」

「分かった」


 一言断って、足を進める。


「よっ、元気?」

「……あ、古庵先輩! こんにちは!」


 声をかけたのは、以前、友達を作りたいという依頼を持ちかけてきた静香だ。


「こんにちは〜」


 隣には、その時友達になった菜月も一緒にいた。


「相変わらず綺麗な青髪だね」

「あはは、嬉しいです! 先輩も白い髪はケア大変じゃないですか?」

「まぁね。おすすめのカラーシャンプーあったら教えてほしいな」

「私は――」


 白髪が黄ばまないようにカラーシャンプーを使うのだが、これがなかなか難しい。

 モノによって微妙に色味が違うし、日々の研究が必要だ。


「お、おい古庵……」


 背後から蓮が声をかけてきた。

 話し込んでしまったようだ。


「ごめんごめん。待たせちゃったな」

「いや、そうじゃなくて……」


 顔を見てみると、緊張したように顔が強張っている。


「どうした? 体調でも悪いのか?」

「違うんだよ……その子、その子なんだよ」


 指差す先にいたのは静香だった。

 彼女は、なぜ自分が注目を浴びているのか意味がわからない様子だったが、蓮の顔をしばらく見つめていると、「わっ」と驚いて――。


「前に助けようとしてくれた人ですよね! あの時はありがとうございます!」

「…………は?」


 世界は広い。夥しい数の人間がいて、それぞれが自分の人生を歩んでいる。

 個人個人がオリジナルの人間ネットワークを築いていて、予測は不可能に近い。

 だが、人間社会は途方もなく広いのに、世間というものは、これほどまでかと思うほどに狭いのだ。

 ――そして俺は、これからそれを学ぶことになる。

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