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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第2章

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バトル

 数日が経過したが、驚くほど成果はない。

 他の方法を探しつつ、今日も依頼の遂行に向けてKLの教場で蓮を待っていたのだが――。


「私だ。瑠凪はいるか?」


 訪れたのは、予想もしてなかった人物だった。


「あれ、先輩。どうしたんですか?」


 俺が声をかけると、凛は美しい銀髪をかき上げながら、嬉しそうに顔を綻ばせる。


「いや、特に理由はないんだが、少し時間があったから様子を見に行こうと思ってな?」

「そういうことですか。どうぞ、入ってください」


 ヒールの音が静かに教場に響く。

 白いワンピースのフリルが控えめに揺れ、清楚さと上品さを感じる。

 一歩一歩進む姿にも育ちの良さが表れていて、今日も彼女は輝いていた。


「いま、ちょうど依頼人と待ち合わせしてるんです。あと20分くらいでくると思うんですけど」

「そうだったのか。なら、あまり時間をかけないようにしよう。今回はどんな依頼なんだ?」

「詳しいことは言えないですけど、恋愛相談です。春と冬は恋愛系が多いですよ」

「恋愛か……手強いな」


 凛ほどの美貌の持ち主なら、恋愛なんて取るに足らない相手だろうに。

 それとも、高貴なオーラを放っているから男子は近づけないのか。


「……どちら様ですか?」


 その時、背後で本を読んでいた七緒が声をかけた。

 声色は冷たく、どうしてか敵意を孕んでいる。

 凛はその敵意を堂々と受け止めて、視線を返す。


「私か? 私は西堂凛。瑠凪の直属の先輩だ」


 一体いつ、俺は彼女の傘下に入ったのだろう。

 いや、将来安泰そうだし部下になりたいところではあるけど。


「そういう貴様は誰だ? 人に名前を聞く前に、自分から名乗るのが筋だと思うが……」

「面白いことを言いますね。自分が訪ねてきたんですから、知らない人がいたら先に名乗るべきでは?」


 二人の視線がバチバチと音が鳴りそうなほど激しくぶつかり合っている。


「……ふふふ」

「はははは」


 え、なんて二人とも笑ってんの?

 怖いんですけど……。


「瑠凪よ」

「は、はい!?」


 突然話を振られたものだから、びっくりして情けない声を出してしまった。


「彼女が先日私に……先日私と二人きりのディナーに行った時に言っていた、つきまとってくる女子だな?」

「なっ……」


 先輩、どうして言い直すの?

 動揺していた七緒だが、きっと目を細めるとこちらを睨みつけてくる。


「先輩? どういうことですか? 私というものがありながら――」

「次は私の服を見繕ってくれる約束だったな。あぁ、とても楽しみにしているぞ? なにしろ、私たちは互いに心を開きあっている仲なのだから」

「…………」


 七緒の目が完全に殺意に染まっている。

 かけているメガネが割れそうな威圧感。


「まぁ、私はこれからいくらでも先輩と仲を深められますから。同じサークルのメンバーとして認められたことですし」


 威力面では遥かに劣っていそうな攻撃だが、凛は思いの外ダメージを受けているようだった。

 一瞬身体がぐらつくが、すぐにシャンと立ち直る。


「毎日会っているばかりでは新鮮味がないだろう? 将来的には……ず、ずっと一緒にいるかもしれないのだから、今はたまにしか会えない貴重な時間を大切にするべきだ」


 ずっと一緒? 何が?

 あれか、女子にしか分からない暗喩的なやつか。


「それに、貴様は最近瑠凪と知り合ったのだろう? ならば、歴で見ても私の方が親密なのは確実。出会ってからの期間の長さが親密さに直結するわけではないが、私たちはそんなに浅い付き合いはしていない。これで分かったか? どちらがより、瑠凪と近いかということに」


 マシンガンのような言葉の連射の前に、七緒は黙りこくっている。

 彼女が一方的にやられるなんて、珍しいものを見れた。

 そう考えていたのだが、その口元は微かに、機をうかがっているように笑っている。


「……そうですねぇ。確かに、親密なのは貴女かもしれませんねえ」

「そうだろう? いや別に、競っているわけではないがな? 時にははっきりさせておかねばならないこともあるんだ」


 敗北した人間とは思えない、馬鹿にしたような声色。

 だが、凛がそれを知るのは、次の瞬間だ。


「私は瑠凪先輩とキスしましたけど、貴女もそのくらいしてるんですよね?」

「………………は?」

「いやぁ、さすがですねぇ。大学生にもなって、キス程度で勝ったと思った自分が恥ずかしいですよ〜」


 今度は逆に、凛が黙りこくってしまっている。

 それは打ちのめされたというより、何が起きたか理解できていないような表情だった。

 これが狙いだったのか。

 さっき七緒が何も言わなかったのは、カウンターの威力を最大限に高めるため。

 どうして俺と凛がキスをしたことがないと分かったのかは不明だが、ともかく勝機を理解した彼女は、わざと攻撃を打たせた。

 そして、防御が解かれる勝ち誇った瞬間に、最大火力をぶつけたのだ。


「る、瑠凪……? それは……本当……なのか……?」


 生まれたての子鹿のようにぷるぷると震えながら、凛がこちらへ近づいて来る。


「あの……あれは事故でして……」


 わざとらしく弁解するのもどうかと思い、とりあえず真実だけを伝えることにした。

 正確には事故でなく七緒の暴走だが、事故みたいなもんだろう。


「…………そうか」


 顎に一発良いパンチをもらってしまったボクサーのように、フラフラと彷徨う凛。

 もはや、勝負の結果は明白だった。

 にこやかに口を閉じているが、七緒の身体からは勝ち誇ったようなオーラが出ている。


「また、来る……。デート、楽しみにしてるからな……それでは……」


 これ以上七緒と戦っても勝ち目がないと理解したのか、凛は教場を出ていってしまう。

 どれだけダメージを負っていてもちゃんと扉を閉めるんだから偉い。


「……お前、先輩と喧嘩すんなよ……」

「ライバルは逐一蹴散らさなければいけませんから。特にあの人は強敵ですからね。多分何回倒しても立ち上がってくるタイプですし、いずれ息の根を止めますよ」


 ライバルとか強敵とかはよく分からないけど、息の根を止めるっていうのはたとえだよな?

 徐々に周囲の人間関係が険悪になっている気がして、現実から目を背けたくなった。

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