回想
第二章開始です!
ドラマを観たり漫画を読んでいると、「運命の出会い」というイベントが出てくる。
二人には示し合わせたかのような共通点があり、川が海に繋がっているかのように恋に落ち、一生分の甘さを含んだハッピーエンドを迎える。
全ての人間がこう在れと願いたくなるような、勝者の裏には敗者がいるということを忘れてしまいそうな幸せの奔流。
それが運命の出会い。
果たして、誰のもとにも平等に訪れてくれるのだろうか。
……少なくとも、私は生まれてから高校を卒業するまで、運命の出会いを経験したことがない。
無論、自分が気付いていないだけで、既にその機会を逃している可能性はあるだろう。
道端に落ちている石ころを無意識に蹴飛ばすように、無自覚に無下にしてしまっているかも。
それは分かってる。分かっているけれど、やっぱり運命には出会っていない気がしていた。
大学生になってしばらく経った。
私の人生は大きく変わることはなく、高校生に自己責任という名の自由をプラスしただけの毎日を送っている。
だが、一つだけ変わったことがあった。
知っているだろうか?
運命というのは一目で分かるものではなく、ある程度の交流を経てから訪れるようなのだ。
なぜそれが分かるのか?
――私は大学一年生にして、運命に出逢ったからだ。
私には、好きな人がいる。
名前を古庵瑠凪といい、白い髪のよく似合う、美形の男子だ。
まだ直接――と言って良いのかわからないけど――知り合ってから日はそう長くなく、お互いになんとも言えない距離感。
彼からはなんとも思われていないけど、正直言って私は自分の気持ちを隠しきれそうにない。
活躍している姿を見ると嬉しいし、そうでなくとも見ていたい。
同じように考えている子は何人かいるようだ。
負けたくない。取られたくない。
どうにかして関わりたくて、隣にいるのは自分がよくて。
でも、それはできない。
絶対に私の願いは叶えられない。
何故なら、私は彼に嫌われているから。
理由ははっきりとはわからないけれど、少なくとも避けられているのは確か。
それは仕方ない。どんな人間にも向き不向きがある。
彼が自分を拒否するなら、それを受け入れるしかない。
でも、この気持ちは本物だ。
だから私は、せめて彼に良い大学生活を送ってほしい。
その人生に私はいなくても、同じ空気を吸っていた大学生活が素晴らしかったと思い出に残してほしい。
依頼を解決して、大学内での評判が良くなって、良い人生を歩んでほしい。
それが、彼の何気ない言葉で救われた私からの恩返し。
気持ちをぐっと抑えたら、浮き足立つような気持ちで、彼に会いに行く。
『名言爆誕! 魂の友達作り編』
大学への入学を控えた高校三年生が抱える悩みのうちの一つに「友達ができるか」というものがある。
大学は、高校とは違いより広くの場所からより多くの生徒が訪れる。
県外どころか海外からの留学生までいるのだ。
枯れてしまったはずの桜の香りがかすかに鼻腔をくすぐるこの日、KLには新たな依頼者が現れた。
彼女の名前は「真香」、一年生だ。
その内容は「友達作り」。
休日に共に遊びに出かけられるような友達がほしかったが、大学生の表面的な友情の乱立にのまれ、孤独に取り残されていたらしい。
〜中略〜
瑠凪は言葉巧みに赤い髪の女子生徒に近づいた。
カフェという閉鎖的な空間での出会いは、街中でのそれより警戒心を生みにくい。
そして、見事に真香との約束を取り付けると、不審なストーカーと共に去っていく。
再三の警告にはなるが、瑠凪について回っている女はKLのメンバーではなく、赤の他人。
突如現れて瑠凪に付き纏っている、まさに不審者である。
この生徒についての詳細な情報を入手したら、至急連絡されたし。
〜中略〜
疾風のようにKLの教場を飛び出した瑠凪。
その足取りには、確かな決意が滲んでいた。
しかし、彼の脳内に真中の居場所は浮かんでこない。
立ち止まり、端正な顔を真剣に固めて考える。
「…………そうか、わかったぞ」
スーパーコンピュータ顔負けの頭脳によって、彼は真香の行き先をシミュレートしていた。
その数なんと580000000通り。
そうして導き出された結論に基づき、瑠凪は再び駆け出す。
「真香ちゃん」
人通りの少ない路地裏。真香の姿はそこにあった。
心底打ちのめされたかのようにしゃがみ込む背中は、彼女が涙を流していると伝えている。
「真香ちゃん」
もう一度呼びかける。
その声は慈愛に満ちていて、聞くもの全ての心の傷を癒してしまう。
真香も例外ではなく、彼の声を聞き、立ち上がって振り向いた。
〜中略〜
「人は一歩踏み出した時に成長するんだ。真香ちゃんは、もうとっくに階段を登っていたんだよ」
勇気を出してKLに相談に来たこと。
実際に友達候補に出会って会話したこと。
どちらも、なんの覚悟もなくできることではない。
つまり、真香はもう一歩踏み出していたのだ。
瑠凪はそれを伝えたかった。
その言葉は弾丸のように素早く、鋭く真香の胸に刺さる。
〜中略〜
赤い髪と、真香の泣き腫らした目元が共鳴しているかのようだ。
二人は笑顔で会話を続けている。
「……さて、そろそろ俺たちも行くか」
瑠凪は、二人を邪魔しないよう、そして不審者に正当な裁きを下すべく連れ出す。
晴れやかな空の下、彼の黒いブーツが踊るように音を立てる。
そして、さわやかな笑みを浮かべながら、こう呟いた。
「要するに、一番大変なのは最初の一歩を踏み出すことなのさ。それさえできれば、途中で壁にぶつかっても、最後は乗り越えることができる。二人はもう大丈夫だよ。ま、午後の講義には遅れるだろうけどね」
こうして、今回も瑠凪の八面六臂の活躍によって、一人の生徒が救われた。
ありがとう、KL。ありがとう、瑠凪。
何か悩みがあれば、いつでもKLへご相談ください。
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