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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第1章

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「あのあと、最初の子ともちゃんと仲良くなれて、今度三人でバンド組むことになったんです! 二人とも、うちのサークルに入るって言ってくれて!」


 数日後。面倒な講義を終えて昼休み。

 KLの教場には、俺と静香、そして紫が集まっていた。

 嬉しそうに成果報告をする静香を見て、紫は頬を緩めている。


「良かったね。仲良くするんだよ?」

「はい! 紫先輩にも今度紹介しますね!」


 サークル移籍までしてくれるなんて、菜月は今のサークルに不満を持っていたのだろうか。

 いや、ただ単にこちらのサークルの方が楽しそうだと判断しただけか。

 大所帯だと人間関係にも苦労するし、少人数でワイワイやるのが楽しいのもわかる。

 逆に、少人数サークルで人間関係のもつれが起こると速攻で解散になるが。


「それじゃあ、友達作りの依頼は完了ってことで良い?」

「もちろんです。本当に、ありがとうございました!」


 深々と頭を下げられ、少し誇らしい気持ちになる。

 ちらりと紫の方へ視線をやると、彼女もこちらを見ていたようで、にこりと微笑んでいた。


「静香に古庵君のこと紹介して良かったみたいだね。友達二人もできちゃったし、大活躍じゃん。早速ブログに書くの?」

「……ブログ?」


 聞きなれない言葉に、思わず聞き返す。

 SNSが普及している時代にブログという言葉が出たからではない。

 あたかも俺がブログを運営しているかのような口振りだったからだ。


「ブログってなんのことだ?」

「ほら、『KL活動日誌』の事。最近アクセス数すごいよね」

「なんだそれ? そんなの知らないんだけど……」

「……え?」


 俺が呆けているのかと思ったのか、当たり前のように会話を続けていた紫。

 しかし、表情を見て本当にブログについて知らないと理解したようで、スマホを数秒ほど触り、画面を見せてきた。


「……おいおい、なんだこれ」


 画面には、彼女の言っていた通り『KL活動日誌』というブログ名が表示されていた。

 指でスマホ画面をスクロールすると、いくつかの記事が出てくる。

 レイアウト自体は簡素だったが、今年に入ってからの俺の活動、そして、その結果について事細かに記されていた。


「聞いた話によると、依頼をした生徒のところにメールが届いてアンケートに答えさせられるらしいよ。答えるとカフェのギフトカードがもらえるから、みんな詳しく書くんだってさ」


 最新の記事は「恋のキューピッド! 一ヶ月の努力がついに実る!?」というものだ。

 開かずとも、どの依頼についての記事か理解したが、一応記事を見てみることにした。


『――季節外れの雪が、二人の頭上から降りてきた。それはまるで、天使が祝福の息吹を吹き込んでいるようで。瑠凪は、その類まれなる力を使って雪を再現したのだ。そして、手を取り合う二人の背中に微笑むと、瑠凪は颯爽と去っていった』


 いや、実際には雪のスプレーをネットで購入して使っただけなのだが。

 というか、類まれなのはその文章力の方だ。

 俺を除いた依頼関係の人間の名前はオリジナルに変えられていて、俺が行った作戦についても、物語のように書き換えられている。

 あくまで身バレしないような配慮とともに、読み物としての精度の高さが容易に読み取れた。

 そしてもう一つ。既にこのブログは正の循環に入っている。

 紫はさっき、このブログのアクセス数がすごいと言っていた。

 記事の途中にアドセンスが設置されているため、少なくない収入が入っているはずだ。

 そして、その収入からアンケートのお礼の費用を出しているのだろう。

 開設当初はどうしていたのかわからないが、今ではブログ運営者は、自らの財産を投じる事なく、新たな記事を執筆することができる。


「紫ちゃんも、このブログで俺のことを知ったの?」

「……うん。そうだよ」

「そういうことか……」


 ブログには俺の個人的なこと、誰とどこへ行ったかは書かれていないため、近頃の、俺の情報が筒抜けな理由にはならない。

 名前以外の情報は守られている。

 収益を得ているのは癪だが、このサイトの文面から俺への悪意は感じられない。

 これもまた七緒の仕業かと勘繰ったりもしたものの、何故だか違うような気がした。


「……ん? これ、おかしくないか?」


 記事をもう一度読み返していると、明らかに違和感のある場所を見つける。


『手を取り合う2人の背中に微笑むと、瑠凪は颯爽と去っていった』


 この部分だ。

 まず、俺はこの時、誰にも見つからないような高めの位置に隠れていた。

 そして、そこから雪を降らせたわけだが……。

 雪が降った理由が俺なのはまだ理解できる。

 時期的に雪が降るわけがなかったし、当日は晴れていた。

 あり得ないことが起こったなら、そこに外的要因があるのは確実だろう。

 だが、問題は、なぜその後の俺の行動を知っていたか、だ。

 この締め方は物語的に美しいだろう。

 読者はきっと「創作物」としてこの行動を受け止めるはずだ。

 しかし、俺は実際に、格好つけて文章に書かれていることと全く同じことをしていたのだ。

 自分で発生させた雪に酔っているようで思い返すと恥ずかしいが、偶然の産物というには一致しすぎている。

 ……このブログの運営者は俺の後をつけている?


「ねぇ。もしかして、このブログの記事って無許可?」


 俺の表情から悟ったのか、紫が少し眉をひそめながら聞いてくる。


「無許可どころか、俺は今の今まで全く知らなかった」

「…………」


「なんなら、記事を書いてる奴は俺の行動を監視してる可能性が高い」


「それって、ストーカー……なんじゃない?」


 思わず頭を抱えてしまった。

 深く考えたくはなかったが、おそらく紫の言う通りだろう。

 ブログの運営者が七緒じゃないとすると、残念ながらストーカーはもう一人存在していることになる。


「いや、ストーカー二人とかどんな確率だよ……」


 俺は国家機密でも握ってたのか?

 もしかしてFBIとかに狙われてるのかもしれない。


「ストーカーが二人……?」

「いや、気にしないでくれ。こっちの話だから…………はぁ」


 紫に言ったところでどうにもならない。

 むしろ、部外者に伝えることでストーカーを刺激してしまうかもしれないからな。

 気にしているわけではないが、以前みた夢が、踏んづけてしまったガムのように脳裏にこびりついているのも確か。

 アンケートのメールが来たら知らせるようにと静香に伝え、依頼自体は晴れて完了となった。

 しかし、俺の心には何故か、何か当たり前のことを見落としてしまっているかのように靄がかかっていた。

毎話お読みいただきありがとうございます!


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