表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/124

大学生あるある

 やるべきことなんて早く済ませれば済ませるほど良い。

 ダラダラしていると日々を無益に過ごしてしまうが、後々その時間がどれだけ貴重だったのか理解する。

 早起きは三文の徳とか時は金なりとか、お兄ちゃんだから我慢しなさい程度の暴論だと小学生の時には思っていたが、今考えるとかなり重要なことだ。

 いくらやる気があっても、何事も一日でマスターすることなんてできない。

 急激な成長は日々の努力の結晶として訪れる。

 だからこそ、継続のために人は時間を捻出し、理想の自分に近づくために行動する。

 だが、こんをつめ過ぎるのは身体に害を及ぼしてしまう。

 適度な余裕を持ちながら、しかし一歩ずつ確実に進むことが、後の自分の身を救うのだ。

 お兄ちゃんだから我慢しなさいはよく分からないが。


「ということで、明日二人の生徒と会ってもらうから、話題とか考えておいてね」

「はい、なんとか頑張ってみます」


 ここ数日の活動で、二人の生徒を静香の友達候補として選んだ。


「でも、受け入れてもらえるか心配です。嫌われないかな……」

「それはほら、人には相性とかあるし仕方ないよ。どんなに好かれてるように見える人でも、全く敵を作らないっていうのは無理じゃないかな」

「そう、ですよね。ちょっと心が軽くなりました。ありがとうございます」


 事前情報をもとに、彼女の希望に沿った人選ができたと思っているが、あとは実際に会ってみないとわからない。

 中身がめちゃくちゃ合うのに生理的に無理な人とかいるしな。


「あと、途中で場所の移動をしてもらうから、それだけ覚えておいてほしい」

「わかりました。あの、ありがとうございます。こんなに早く対応していただいて……先輩が勧めてくれた理由がよく分かりました」

「ううん。気にしないで。君が一歩踏み出そうとしたことが、誇るべきことなんだよ」


 会うのは明日だが、既にその顔には緊張が走っていた。

 それよりも、彼女はかなり気になることを言っていたような。


「先輩って、この間来た子? 勧めてくれてたの?」

「え、はい。紫先輩、いつも言ってましたよ。『古庵君はすごい』って」

「へぇ……」


 てっきり嫌われているとばかり思っていたが、能力は評価されていたのか。

 口ぶりからして、紫は昔から俺のことを知っていたようだが、俺が関わった依頼の中に彼女の姿はなかったはず。

 いつ知り合う機会があったんだ……?


「それで、紫先輩はいつも困ったことはないか聞いてくれるんです。とっても優しくて、私、尊敬してます」

「そうなんだ。てっきり俺は、あの子は冷たい子かと――」

「なんの話してるの?」


 俺の言葉は、冷たい声でピシャリと打ち切られた。

 聞こえた方を向くと、そこには女子生徒の姿が。

 凹凸が少なく、薄いと表現するのが適切な体系。

 おそらく、女子が言う「細い」とは彼女のことを言うのだろう。


「あ、紫先輩!」


 静香が嬉しそうに手を振って挨拶する。 

 紫は優しく手を振りかえすと、静香の横の席に座った。


「……で、なんの話してたの?」

「経過報告だよ。なんとか二人の候補が見つかったから、実際に明日会ってもらおうと思って」

「へぇ…………やるじゃん」


 前回同様、俺に向けられる視線は氷のように冷たい。

 だが、俺はその冷たさの中に、信頼のような温かみがあるのを感じた。


「随分、後輩に慕われてるんだな」

「……別に、そんなことないと思うけど」

「いや、静香ちゃん、紫ちゃんの話してる時すごく楽しそうだったよ」


 てっきり、静香はあまり会話が得意じゃないのかと思っていたが、紫への明るさを見るに、心を許した相手とそれ以外での差が大きいだけみたいだ。

 後輩に慕われているという事実が照れ臭いのか、紫はほのかに耳を赤くして、そっぽを向いている。


「…………急に名前で呼ぶんだ」

「なに? なんて言った?」

「ううん。それより、明日の準備はできてるの?」


 彼女は小声で何か言ったあと、話し相手を静香へと変えた。


「頑張って考えてます。出来るだけ、簡単な話題がいいですよね」

「そうだな。その二人はあんまり友達いないみたいだし、あるあるで攻めるといいかもしれない」

「あるある……ですか?」


 あるある、大学生あるある。

 人間には誰しも失敗や黒歴史がある。

 そして、その内容は十人十色だが、軽い失敗に関しては一度は同じような体験をしているのだ。


「たとえば、受講した講義が思ったのと違ったとか、最初に電車の乗り換えで苦労したとか、教場の後ろの方が埋まりすぎて目立つ席に座ることになったとか……。当たり前だけどしがちな間違いで場を温めて、そこから趣味なんかに話を繋げると良いと思う」

「当たり前だけどしがちな……それなら思いつくかもです!」


 一つ二つと、静香はゆっくりと案を出していく。

 俺はそれに相槌を打ち、案を補強するための意見を出す。


「なら、新歓の話をするのもいいんじゃないか? 静香ちゃんも新歓行ったでしょ?」

「行きました。先輩も一年生の時に行ったんですか?」

「そりゃあもちろん。去年いろんなサークルの新歓に行って、友達たくさん作ったよ。んで、途中で先輩に酒飲まされちゃってさ……」


 講義前の教場だけでは、基本的に同じ学部の生徒としか知り合えない。

 受ける講義が専門的だからだ。

 しかし、サークルへの参加はどの学部からでも出来るため、一年生が集まる新歓は効率が良い。

 そこで知り合った生徒の中には今でも親交のあるやつがたくさんいるし、行って良いイベントである。

 この時、俺は静香に向けて話していたが、何故か反応を示したのは紫の方だった。


「……先輩にお酒飲まされちゃった後はどうしたの?」

「いやぁ、それがあんまり覚えてないんだよな。俺、めちゃくちゃ酒弱いから。ただ、後日そのサークルは潰れたよ」


 正確には、ムカついたから俺が潰した、だ。

 そこは軽音サークルだったが、詳しく調べてみると、新入生に酒を飲ませてお持ち帰りしたり、かなりあくどい真似をしていたらしい。

 俺はちょうどよく、その被害者たちの力を借りて、サークルを潰したというわけだ。


「そう……なんだ」


 妙に悲しそうな顔をしている紫。

 もしかしたら、そのサークルに苦い思い出でもあるのかもしれない。

 その後もいくつか案を出して、経過報告は終わった。

 

毎話お読みいただきありがとうございます!


《読者の皆様にお願いがあります》


読者様はお一人につき10ポイントまで作品を応援することができ、それが執筆・更新のモチベーションになります。


私はモチベーションの上下が激しいタイプなので、少しでも

『この回が面白い!』

『はやく更新しろ!』

『続きが楽しみだ!』

と思っていただけたら、最新話のページを下にスクロールした先にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです!


人気作品からすればちっぽけな10ポイントかもしれませんが、私にとっては作品の今後を左右する大切な指標になります。

なにとぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ