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いい男

「――というわけで、佐藤さんと深い仲になるっていう当初の予定は達成できなかったものの、むしろより高い結果を得られるってことで、生島の依頼は達成されることになった」

「ライオンは子供に餌を与えるのではなく、狩りの仕方を教えるという。それはただ食べ物を受け取るよりも遥かに面倒だが、一生の武器になる……瑠凪はそれを見越していたわけか」

「ま、まぁ、そんなところです」


 凛先輩は少しばかり俺を過大評価する傾向にある。

 割と行き当たりばったりのところもありますよ、と言いたい気持ちもあったのだが、こんなに感心されてしまうと心の奥にしまっておくしかなくなってしまう。


「生島先輩……だっけ。その人、今は彼女いるの?」

「あぁ。さっき七緒と歩いてる時に偶然会って、彼女との写真を見せてくれたよ」

「たぶんアプリですよね」

「そうだな。雰囲気的には、かなり良いところを取れたんだろうな」


 可愛いけど擦れていない女の子はごく稀にいる。

 生島は、そんな当たりを引き当てることができたのだろう。

 いわゆるビギナーズラックだ。


「くうぅ……羨ましいぜ」

「楽人も、この前の子といい感じなんだろ?」

「そりゃあもう! これからは一層、瑠凪先生にアドバイスをいただく所存よ!」

「……楽人はそのままの方がいいと思うぞ」


 イケてる男として立ち回るのも強いが、一途に相手を想っていることを態度で示すのも良い。

 特にギャルは尽くされたがりだ。

 そんなことを思っていると、ふと、周囲の生徒が少しずつ減ってきていることに気がつく。


「話に夢中になってて気付かなかったけど、もう昼休みが終わるのか」

「このあと、依頼がありましたね」


 面々は俺に続いて立ち上がる。


「私もサークルがあるんだ。夏休みの合宿に向けて色々と」

「へぇ、合宿なんてあるんですね。どこまで行くんですか?」

「まだ決まってはいないんだが……あぁ、のびのびできるところがいいな。良かったら瑠凪達も来てくれて構わないよ」


 それじゃあ、と凛先輩が去っていく。

 劇団サークルのメンバーとは面識があるし、面白そうだから参加してみたい気持ちはある。


「私もそろそろ行くね。今日は軽音かあるけど、明日は参加するから……逃げないでね」

「逃げられるようなことをしないでくれたらな」

「俺も行くぜ! 世界が俺を待ってるからな!」

「あれからチーム数は増えたか?」

「競技者は二人増えたな!」


 徐々に競技人口が増えていってるんだよな。

 あと5年もすればメジャーな競技になっているのかも。


「あ、そういえば気になってたんだけど」

「ん?」


 去り際、紫が俺に問いかけ、楽人も足を止めた。


「佐藤さんって、それからどうなったの?」

「あぁ、佐藤さんね。あの子は――」

「――あ、瑠凪くん!」


 俺の言葉は、この場の誰でもない声でかき消された。

 かなり甘ったるい、作ったような声。

 振り返った先にいたのは――。


「モカちゃん、久しぶり」


 佐藤モカだった。


「久しぶりっていうか、瑠凪くんが全然返事してくれないんじゃん〜」

「そうかも、ちょっと最近忙しくてさ」

「まぁイケメンはモテるもんねぇ」


 一年前よりもメイク技術や道具の質が向上し、陶器のような肌を手に入れたモカ。

 横にいる七緒達のことなどお構いなしに、彼女は俺に腕を絡めると、上目遣いになる。


「またご飯食べに行こうよ。お土産もあげるしさ」

「そうだなぁ。行くなら寿司かな。気難しいけど腕はいい店主が、SNSでバズったせいで礼儀のなってない若者がいっぱい来るようになっちゃって、喜んでいいのか怒ればいいのか分からなくなってる顔が見たい」

「わかったぁ! お店探しとくね〜!」


 本当に理解しているのか不明だが、モカは上機嫌で去っていった。


「……さて。邪魔が入ったけど、そろそろ行こう」


 口に出してみるが、他の三人は目を細めて俺を見ている。


「……その、瑠凪さん? さっきのって生島先輩の話に出てきた佐藤先輩だよな?」

「そうだな」

「ど、どうして佐藤先輩が瑠凪にあんな態度なんだ?」

「そんなの、理由は一つしかないだろ。モカの人生で一番いい男が俺だった」


 依頼が待っている。

 背を向けて歩き出すと、楽人の感心した声と大きな足音、そして舌打ちと共に七緒が脇腹をつねってきた。

番外編終了です。

次の章は、また気が向いた時に執筆予定です。

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