真実
雛が巣立つまでは長いから、巣立ってからは早く感じる。
きっと、巣で子供を育てる親鳥も同じように思っているだろう。
一度目のデートを成功させた生島は、その後二度目のデートでもそれなりの成果を得た。
その後、反省会のために一度、生島とファミレスで落ち合ったからデート前とは顔つきがまるで違っていた。
自信に満ちている、とまではいかないが、表情は明るくなっている。
だが、さらに一週間後に彼からの連絡があった時、その文面は戸惑いに染まっていた。
「――おっ、来たな。おはよう生島」
学内に設置されているベンチに座っていると、約束通りの時間に生島が現れた。
手を挙げて挨拶してみると、昼だというのに彼は礼儀正しく「おはようございます」と返してくれたが、やはり浮かない顔。
ひとまず隣に座るように促し、数回ほど肺の中に澄んだ空気を入れてから、問いかける。
「んで、どうした?」
「……佐藤さんと、デートに行ったんです」
「おお、良かったじゃないか。当初の目標の一つだったからな。俺も自分のことのように嬉しいよ」
「そう、なんです。本当に全部、古庵先生のおかげなんです。でも……」
「――楽しくなかった、だろ?」
どうして分かるのか。そう聞いてくることも、手に取るように理解していた。
「よし、多分これが最後のアドバイスになるだろうから、心して聞くといい」
そう言うと、生島は口を固く結んだ。
「佐藤さんとのデートは、アプリで会った一人目や二人目……生島の反応的に、もう一人は会えると思うが、その誰よりも楽しくなかった」
「も、もう一人会えたのも見抜かれてたんですね……。後で先生を驚かせようと思ったのに」
「全部顔に表れてるよ。その三人目に、今一番惹かれてるってことも」
「――すごいや。先生というより、もはやマジシャンみたいです」
おだてるのが上手いな、なんて考えつつ、話を続ける。
「まず俺は、サークル活動に参加した時点で佐藤さんとの未来はないと思ってた。その理由は簡単で、二つの大きなマイナスポイントがあるからだ」
俺は、佐藤さんへの疑念を抱いた部分を語り始めた。
まず、ギャルとの会話を思い出す。
『――でさぁ、いきなり肩に手回してくるやつがめちゃくちゃ多くて。そういうやつに限ってかっこよくないんだよね』
『クラブかぁ、俺も二十歳になったら行ってみたいなぁ』
『いいじゃん、君モテそうだし』
『ありがとうございます。えっと、モカ先輩の方はそういうエピソードあるんですか?』
『ええっ、私?』
『ほら、あるじゃんモカも――』
『ちょっと、違うから!』
この時の反応は、間違いなく男絡みのやらかしだ。
ギャルが知っているということは、二人が同じ場所にいたということ。
普段から二人でどこかに行く関係性ではなさそうだと感じることから、たまたまクラブで出くわしたとか、初めて二人で遊んでクラブに行ったとか、そんなところだろう。
そこで、酒を飲んだにしろ飲まないにしろ、他人に言えないような不埒な体験をしたのは間違いない。要はガードが緩い。
次に、彼女の収入源だ。
『そういえば、モカ先輩のネックレス可愛いですね。どこのなんですか?』
『Viorだよ』
『マジですか! なんのバイトしてるんですか!?』
『バイト? バイトは普通にカフェだよ〜』
この時にしていたネックレスは、定価15万。
二回生だろうが三回生だろうが不釣り合いの代物。
もちろん、彼女が努力して購入したという考え方もできるが、カフェのバイトでそこまで貯められる我慢強さがあるのか。
そして、バイト「は」普通にカフェと言っていたことから、別の収入源があるのは明らかだった。
佐藤さんはパパ活をしている。大人ありか大人なしかは関係なく、そういった行動に手を染めることで、人間は金銭感覚や倫理観が少しずつかけていく。
「生島がデートの時に読み取り、疑問を抱いたのはこれらだ」
「ぱ、パパ活をしてるってことは言ってませんでしたけど、それっぽい言葉は何度か出てきました。先生の話を聞いて納得しました……」