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タイプ


 そこからも謎の武器談義は続き、しばらく経ったころ。

 なかなか展開がないことに業を煮やした――わけではなさそうだが――女子が、強引に話題を変える。


「ゆうき君は、どんな子がタイプなの?」

 

 恋バナ。老若男女どの世代にも通用し、盛り上がる最強のカード。

 仮に話題デッキを組むとしたら、どんなデッキにも入る必須級の一枚である。積み込んだ方がいい。


「好きなタイプ……かぁ」


 彼には先に言っておいたが、デートにおけるタイプの質問は、その9割が「雑談」ではない。

 自分が相手の好みに当てはまっているのかどうか、または離れている場合でも合わせることができるのか、その判断のために聞くのだ。

 女子も男子も、その大部分は相手から見られる自分で好意が上下しやすい。

 あまり恋愛的に惹かれていない相手であったとしても、直接的、あるいは間接的に好意を告げられると気になってしまうものだ。

 要素はこれだけではないが、サークル内で明らかに顔面のランクが釣り合わないカップルがいる場合、これに該当することが多い。

 まぁ、そこまで言っても残りの一割……つまり「本当に相手に興味はないけど、その場を取り繕うために盛り上がりそうな話題を選んだ」という可能性もある。

 だが、俺から見た感じは前者。女子は生島から間接的に褒められたがっているのだ。


「あーでも、優しい子が好きかな。あんまり外見とかで惹かれることはなくて、中身重視かも」


 佐藤さんは外見で好きになったくせになにを、と彼にツッコむ者はここにはいない。

 そもそも、外見なんて良ければ良いだけ嬉しいに決まっている。

 一つ微妙な部分があるとすれば、日常的に容姿を褒められている子に言うわけでない場合、「私のことを可愛くないって言ってるのかな?」と受け取られてしまう場合があることだ。

 多少のひねくれが入っている女子は屈折した受け取り方をするが、彼女は素朴な心の持ち主らしい。

 優しい子はOK。こういうのは、明らかに相手のことを言っていると理解させる言葉か、占いのような、誰にでも仄かに当てはまる言葉を選ぶのが正解。

 攻めの姿勢は初心者がやると不自然だし、これでいい。


「えみちゃんは? どんな人がタイプ?」


 女子は話したい生き物。自分の話はほどほどに、相手に語る権利を渡すのが良い。

 えみちゃんと呼ばれた女子は、「えー」とわざとらしく考える素振りのあと、口を開く。


「やっぱり私も優しい人が好きかなぁ」


 くだらん。男が自分の好みについてアレコレ言うのは減点にしかならないため、話を切り上げるのが良い。

 それに対して、女子の話を盛り上げるなら、テンプレートでない意見は不可欠なのだ。

 本当なら――


『いやいや、そんなありきたりなのじゃなくてさ。もっと本音聞かせてよ』

『えーっ、えっとねぇ……』


 ――という不毛な会話が差し込まれるのは、相手方も予想できるはず。

 初心者が同じ言葉を口にすると、ヘラヘラしていたり抑揚が不自然になり、言い慣れていないのがバレる。

 それでも意味のない会話を挿入するあたり、人間との会話にはテンポや余白の読み取りが必要だということが理解できていない。人間の多くに当てはまることではある。

 ただ、今回はそれも予想済みだ。生島には打開の一手を授けておいた。


「……前の彼氏は優しくなかったの?」


 何気なく聞いた風にさせているが、俺には確かに見える。

 この言葉は、彼女の心を閉ざしている錠を破壊した。


「優しくないわけじゃないんだけど……」


 そこから、彼女の元彼についての思い出話が始まる。

 俺はスマホを取り出し、その話が終わるまで全てを受け流す。

 同じように生島にも伝えておいた。元彼の話など聞く必要はない。

 ただ、終わった後に一言「えー、めちゃくちゃいい彼氏じゃん」と伝えてやればいい。


「そうじゃないんだよね。実はさ――」


 簡単に言えば「揺さぶりをかける」ことだ。

 別れているとはいえ、彼氏は彼氏。

 一度は自分の手に入った物について、初対面の相手に悪く言われれば擁護したくなるのが人間だ。

 一方で、手放したものを褒めちぎられると、脳が過去の自分の選択を後悔したくないため、悪い部分を話しだす。

 この揺さぶりによって、前の彼氏が本当はどんな人間だったか、どうして別れかを聞き出せるのだ。

 女子の口から出る上部の言葉ではなく、本能が求めている男の要素。それを聞くには必要な工程になる。


 

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