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デート

 先に予定を合わせることができたのは大学生の方だ。

 まあ、社会人は基本的に休みの曜日が固定されているだろうし、当然といえば当然だが。

 ということで本日、俺はまたしても渋谷に来ていた。

 ハチ公の近く、平日でも休日でもお構いなしに待ち合わせの人々が並ぶ列、その正面に陣取っている。

 どうして素直に並ばないのかというと、これは俺が捻くれているからではない。

 商業施設の残骸をバックに、生島が待っているからだ。


『あぁ〜、もうすぐ約束の時間だ。ドキドキするなぁ……』


 これは生島の心の声……ではなく、俺が勝手に予想しているもの。

 ではあるものの、おそらくほとんど正解だろう。

 時間は午後の五時、二分前。講義を終えて開放された大学生二人がデートをする。

 そのうち片方は、今までろくに女子と出かけたことがない。緊張しないはずがないだろう。

 生島の服装は、この前渋谷で買ったものにさせている。

 アプリに載せている写真と同じだということで、他に服を持っていないのではないかと思わせてしまう可能性もあるが、仕方がない。

 実際に、他に良い服――デートに着ていけるような――がないのだから。

 ダサくて一緒に歩きたくないと思われるくらいなら、一張羅の方がマシ。

 そんなこんなで、相手を待っている生島を見ていた俺だが、視界の端がセンサーに引っかかった。

 茶髪で白いワンピースを着た、大学生らしき女子。スマホを操作しながら歩く彼女が、待ち合わせの相手だろう。

 スマホの操作というのも、生島に「もう着きます!」なんてメッセージを送っているものだと思われる。

 ほら、生島もスマホを取り出したぞ。

 その様子を見て、女子は生島を見つけ、駆け寄っていく。


『初めまして〜!』

『あ、は、初めまして! ゆうきです』

『〇〇です〜! 今日はよろしくお願いしますね』


 これも吹き替えは俺が担当している。

 上機嫌な女子の足運び、焦りが目にみえる生島の挙動、お互いにぺこりと礼をしているし、これも間違いない。

 挨拶も済み、二人はややぎこちない歩幅で歩き出す。

 足取りに淀みがあるし、女子の方もあまり経験はなさそうだ。

 頑張れ生島、お前がリードするんだ。


 初回は簡単なデートにするべきという助言のもと、彼はカフェに向かっている。

 代々木公園の近くにある、俺もよく利用する穴場的なカフェだ。

 有名な店だから客も多く、土日はほぼ並ぶことになるため正確には穴場ではないが、わかりにくい立地に入るのを躊躇いそうになる外観が、渋谷に精通していると感じさせることができる。

 しっかりと位置を叩き込んでおいたおかげで、生島は迷うことなくカフェに到着した。

 デート相手に怪しまれないよう距離をとって尾行しているため、カフェが混んでいるかは判別できなかったが、二人はそのまま入店したようだ。

 後に続こうと店に入ると、ちょうど彼らで席が埋まってしまったらしく、外で待つハメになってしまう。

 これでは会話の様子がわからない。唇を噛みたくなったが、よく考えたら、むしろ良いことかもしれない。

 仮に遠い席に通されてしまえば、彼らの声を聞くどころか見ることも叶わなくなる。

 それならば、かろうじて二人の様子が確認できるここから読唇術ならぬ「読デート術」を行い、奇跡的に近くの席が空くのを願う方が良い。

 そうと決まれば行動あるのみ。二人は席に座ったところだ。

 生島は先に女子を座らせている。普通の椅子とソファ席がある時はソファに、これが基本。

 ただ、今回はどちらも椅子となっている。こういう時は「好きな方に座りな」と選ばせるのが良いだろう。

 その一幕があったのかは分からないが、合格だな。

 続いて、店員さんが一冊のメニューを渡した。

 こういう個人経営のカフェで各々にメニューが渡されることは稀で、大体が一冊を二人でシェアする形になる。

 生島は受け取ったメニューを、そのまま相手に渡した。

 これでも及第点なのだが、一番良いのは「メニューを開いて二人で見る」だ。

 各メニューについてお互いの意見を言って笑い合ったり、感想を合わせて共感を得ることができるからだ。

 また、女子は優柔不断なことが多いため、上手く決められるように誘導することも、メニューを共有しながらの方ができる。

 女子が三分ほど悩み、生島にメニューが渡された。

 それからさらに三分経って、女子が手を挙げて店員さんを呼ぶ。

 店員すら呼べないという部分でナシ判定されることがある。ここも反省点だな。

 注文は比較的スムーズにいったようだ。

 だが、本番はこれからだ。

 料理が来るまでの待ち時間、ここで盛り上がらないようでは今後のデートが成功するとは言えない。


 

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