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愛が重いだけじゃ信用できませんか?  作者: 歩く魚
番外編

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報告

 季節の移り変わりは緩やかに見えて、ある時を境に急激にやってくるものだ。

 恋愛もそれと同じで、川の流れのような穏やかさで関係を紡いでいくのかと思いきや、その途中には増水や滝が待ち受けている。

 波という面では季節よりも荒々しい。

 だが、たいていの男はそれを知らず、「このままゆっくりと仲良くなっていけばいいな」と未来を描く。

 人間の心の移ろいやすさを、淡い期待だと知らずに。


 生島に電話の指示を出してから一週間が空いた。

 彼を再び恋愛の荒野に放ち二日が経った時点で、俺はもう焦ったく思っていた。

 だが、狩りを始めたての時は獲物との距離感、息づかいや隙が分からないものだ。

 万全を期して、過剰すぎる前置きの末に行動することは経験している。

 だから何も言わずに待っていたのだが、ついに彼から連絡が来た。

『昨日、電話できました!』

 よし、と頷いてメッセージを返す。


 そこから面倒な講義を二つほど聞き流し、一般的な大学生が「放課後」というような時間帯に突入した。

 いつものように部室という名の不法占拠教場で待っていると、廊下を勢いよく走る音が聞こえてくる。

 足音は予想通りの速度で音量を大きくし、次の瞬間、教場の扉が勢いよく開かれた。


「先生! 電話できました!」

「おつかれ。とりあえずどっか座りな」


 今までよりも歯切れが良い。

 悪い結果ではないことは明らかだが、嬉しそうな顔に免じて聞いてみよう。


「……それで、電話はどうだった? いい成果は出たか?」

「なんと……会う約束を取り付けられました!」


 予想できてしまっているから驚きはないものの、彼のモチベーションのためにも、KLのためにも表情を作ろう。


「やるな、上出来だ。ちなみに、どっちの子になった?」

「どっちもです!」


 これには驚いた。せいぜい一人だと思っていたが、どちらもとは。

 俺の様子に満足したのか、生島は頬を上気させながら言葉を続ける。


「本当は、一人目の約束は三日前にできたんです。でも、先生を驚かせたくて、二人目の子との電話、昨日の結果を確認してから伝えようと思って」

「おお、一本取られたな」

 

 彼の作戦は見事に成功したわけだ。


「あと、新しく二人とマッチングして、メッセージを続けてます」

「ってことは、手札は四人だな。佐藤さんと会う機会は?」

「サークルで二回会いました」


 どうだった? そう聞くと、彼はまたしても調子を上げる。


「す、少しだけ話せました!」


 彼の話によると、二回のサークルでそれぞれ一度ずつ会話の機会があったらしい。

 一度目は合コン形式の雑談の際、佐藤さんに配膳してやる時にメイクの違いに気付いたのだとか。

 そして、彼女のことを褒めたらしい。

 なんでそんなこと分かるんだよ。そんな風に思われてしまう可能性も0ではないものの、会話の入りとしては合格だ。

 恋にメリットを感じない人間であったとしても、案外、その道に入ってみると幸せを感じることができる。

 視野は広がるし、心の振れ幅が大きくなる。幸せという意味でも、不幸という意味でも、どちらでも。

 二度目はサークル活動時ではなく、その直前。

 生徒が教場に集まり出したタイミングに、挨拶をしたようだ。

 この時には、佐藤さんの方から「生島くんって雰囲気良くなったよね(意訳)」ということを言われたようで、おそらく彼は、それに喜んでいる。

 俺も同じだ。明らかに佐藤さんから生島への評価が高まっている。

 これは「友達」としての評価ではなく「男」としての価値が認められ始めていると言っていいだろう。


「こんなに早く成果が出るとは思ってませんでしたし、佐藤さんに褒められたのも夢見たいです! 先生、本当にありがとうございます!」

「喜びたいのは分かるけど、浮かれすぎだな」

「そ、そう……ですか?」

「もちろん成長はしてる、素晴らしい流れだ。ただ、今の生島は高所に登ることはできても、足場は不安定。少しのミスで地上まで真っ逆様だ」


 たとえばビギナーズラックという現象があって、俺の経験上、これは実在する。

 まだ慣れていない、新鮮な気持ちが上手く働いているのか定かではないが、身の丈以上の道のりを歩むことができる可能性が高い。

 しかし、それは「結果」ではなく「道程」なのだ。

 実力を超える道のりを軽い気持ちで歩もうとすれば、途端に振り落とされる。

 絶望する。最初から手に入らないものより、手に入りそうだったのにダメだったものの方が心を抉る。

 そうして、次の道を進むことを諦めてしまう。

 彼が渡っているのは、そのような道だった。

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