返信
一人目は生島と同じく大学生みたいだ。
プロフィールはあまり埋まっていないが、趣味などの最低限の情報は書かれている。
それに対するファーストメッセージは――。
『僕もfront department 好きです!
よろしくお願いします〜!』
となっている。
この「front department」というのは、大学生の間で流行っているバンドだ。
生島が本当にフロデパ好きなのかは定かではないが、入りとしては間違っていない。
流行っているということは別の子にも使うことができる入り口であり、他の男子と被る可能性もあるものの、返信の確度は高い。
これに対しての返信はこれだ。
『わ〜一緒ですね!
この前ライブ行ってきたんです!
ゆうきさんはどの曲が好きですか?』
なかなかに食いつきがあるな。
「返事は好感触。ライブに行くくらいにはアウトドアな気質があることも分かるから、このまま会話を続けつつ、今度ライブ一緒に行こうって話をしよう」
「ライブですか……実は一回も行ったことがなくて……」
「本当に行く必要はない。ライブに行く前に、お互い不安だろうから一回会ってみようって流れに持っていってデートするんだよ」
フェイントってやつだ。
わかりやすい道を進んでいるように見せかけて、本当は他のことを狙っている。
ライブに行くこと自体は断られないだろうが、初回で行くのも、付き合うか分からない相手と行くのもナンセンスだ。
初回はできるだけコストを抑えて見極める。
その口実として、自分の相手が同じ気持ちであること、自然に誘える理由が必要となる。
「とりあえず、この子はそういう感じで。次はどの子だ?」
「えっと……どうぞ」
二人目は年上のようだ。大卒の社会人二年目。
かなり細かくプロフィール設定されていて、出会いに対して真剣なのが伝わってくる。
メッセージもチェックしてみよう。
『僕もタイ料理好きです!
何が一番好きですか?』
まぁ悪くない。唯一『一番』を『1番』にする方が相手が読みやすいくらいか。
『初めまして、よろしくお願いします!
ガパオライスが好きです!』
これが返信。しっかりと挨拶をする、割とまともな人物だというのが理解できる。
「この子は……そうだな、タイ料理を食べに行くのもいいし、近くで海外の料理を振る舞うイベントがやっている時なら、それに誘ってもいい」
「たまに代々木公園とかでやってるやつですよね。分かりました」
「あと、今回とは少しズレるけど、横浜の赤煉瓦でも色々やってるからオススメだな」
いちごフェス的なやつとか、俺は年齢的にまだ行けないビール系のイベントもある。
とてつもなく人が多い代わりに、誘いが成功する確率も高い。
「ちなみに、返事が来ない子も見せてもらえるか?」
「もちろんです」
見せてもらった二人のうち、中身が生きている人間の方をチェックする。
文面自体は『僕もカフェ巡り好きです! 最近はどんなカフェに行かれましたか?』という及第点なものだったが、返事が来ていない。
しかし、相手のプロフィールを詳しく確認すると、理由はすぐに分かった。
「この子は今の生島にとって格上なんだよ」
「格上……ですか。確かに可愛いですもんね」
「年齢では相手が一つ下だけど、この顔ならアプリで無双できる。つまり、それだけ多くのメッセージが来ているし、高レベルの男から言い寄られてることになる」
「僕のメッセージじゃ通じなかったってことですか」
女子の顔面やスタイルのレベルが上がれば上がるほど、対峙する男のメッセージに対する熱意も上昇する。
どうすれば返信がくるのか、自分と相手の共通点はどこなのか。それらを深く考えることで、自動的にメッセージのレベルも上がる。
だからこそ、今までの二人に通用していたメッセージも、この子相手には平凡で切り捨てられてしまうのだ。
「たとえばだけど、『絶対夏生まれ』みたいに適当に決めつけメッセージを送って、ツッコませる事も視野に入る」
「明らかに他のメッセージとは違いますね」
「ただ、注意点もある。相手が不快になるような決めつけは御法度だ」
性格悪そうとか男遊びしてそうとか、そういう類の決めつけをして良いことは一つもない。
当たっているとしても、相手は良い気がしない。
「返事が来ない子は、今は放置でいいかな。マッチした二人を大切に、これからマッチした子も丁寧にメッセージするように」
「返信頻度とか、どうすれば良いですか?」
「通知を入れてるなら、できるだけ早くだな。最終的にはデートに行って経験を積んでほしいけど、まずは電話に持っていこう」
「デートは……いや、そうですよね。ここで経験値を積まないと佐藤さんには勝てない、ってことですよね」
「ようやく分かってきたな」
弟子として知識をインプットしているのが伝わってくる。
この時が一番嬉しいというか、達成感があるんだよな。