尽きない地雷原
「な、ならこの子はどうですか?」
次に提示された子も、写真的には問題なし。
ただ、プロフ文は気になる。
「この部分の『面白い人探してます』っていうのが良くない」
「……みんな面白い人と出会いたいからですか?」
「それもそうだけど、面白い人っていう基準の曖昧なものを探してる子は、その子自体がめちゃくちゃつまらない。面白さなんていうのは自分が作り出すものなんだよ。相手との会話で深掘りできるところ、共感できるところ、驚けるところを自分で探していく。そうやって、二人で面白いを作っていくのが会話だ」
面白い人を探してるというのは、はなから相手に楽しませてもらう気しかない。
「こういうのに限って、受け答えは曖昧だし話はオチもなくてつまらない。カスみたいな会話で満足する。一緒にいても全く楽しくない部類だな」
「相手に楽しませてもらう気でいるっていうのは、少し人任せすぎるかもしれませんね」
それからも何件かプロフィールを確認したが、目につくものは多い。
「この『高身長好きです』『面食いです』とか書いてるやつは、自分の顔面や内面のスペックが釣り合ってない。バランスが取れてるならアプリなんてやらなくても好みの相手にアプローチされる。おおかた、前に偶々イケメンに遊んでもらえたことで、自分の価値を勘違いしてるんだろうな」
「偶然の成功体験を、自分の実力だと思ってしまったってことですね」
「あぁ。同じような例を挙げると『いいねが来すぎて困ってます』『いいねが何千件来ているので厳選しています』とか書いてるやつだな」
「ええ、何千件ってすごくないですか?」
「女子にとっては当たり前なんだよ。アプリを始める心理的なハードルが低くて、男の方がユーザー数が多い。中には、出てくる女子を全員右スワイプする猛者もいる」
猛者か馬鹿かは紙一重だ。
「よっぽど清潔感がなかったり、容姿が優れていないわけじゃなければ、いいねはカンスト近くまで盛られる」
「う、飢えてる男性が多いんですね……」
「行動力は素晴らしいけどな。んで、女子はカンストが当然だけど、これまでロクな扱いを受けてこなかった女子は、これを自分本来の魅力だと勘違いする。『あぁ、私ってこんなに求められてるんだ! 今までは運が悪かっただけなんだ!』っな」
実際に、アプリ内でなら求められているのだが、それが人間としてなのか、性欲をぶつけるための相手としてなのかは怪しいところだ。
「仮に、身体目当てでイケメンに遊ばれたとすると、その子はもう自分の価値を見誤って、アプリ内のほとんどの男に見向きもしなくなる。そうして手の届かない幻影を追い続けて、友達に言うんだよ。『あのアプリにはいい男がいない。どこかに私に釣り合う人はいないかなぁ』ってな」
鏡を捨ててしまった女性の行き着く先は二つ。
そのまま道を違え続けて、独り身のまま、ギャンブルに負け続ける。または、早いうちに失敗に気づき、スペックは高いが女性経験の少ない男を手篭めにするかだ。
「とにかく、少しでもヤバいプロフィールの子は全員切るんだ。デート代を『男が全額払う』にしてるやつもだ」
「それなら、僕が払いますよ」
「男がエスコートするが故に、デート代を男が出すっていうのは気持ち悪い考えだと俺は思うけど、たとえば年下とのデートなんかは奢りがいい。ここでは理由なんて関係なくて、一般大衆の意見としてデート代を負担するのは良い」
「……だったら、この項目はセーフじゃないんですか?」
「それをプロフィールにわざわざ書くところが良くない。理由は今まで言ったものとほとんど同じで、自分を客観視できてない」
外見も良くない。容姿に優れていれば、自分で言わずとも相手が払ってくれる可能性が高い。
見ているだけで、一緒にいるだけでそれほどの価値があると思われるわけだ。
ならば逆説的に、プロフィールに『男が全額払う』と書いている女子は……。
「まぁとにかくだ、当たり障りない文章を選んでくれ」
考えれば考えるほど、避けた方がいい要素が浮かんでくる。
文章のテンションがおかしいとか、迎えに来てほしいとか。
写真を含めるなら、顔が不自然に小さい、目の焦点が微妙に合ってない、プリクラの顔部分しか載せてないとかもあるな。
「中身が綺麗な子とか、普段アプリをやらない子はプロフィールが素朴でつまらない。そういう子が当たりだっていうのは他の男も気付くから、基本的に一週間くらいで相手を見つけてアプリを消しちゃうんだ。だから、検索で『最近アプリを始めた人』から探していくといい」
「課金しないとできないオプションみたいですね。やっぱり使った方がいいんですか?」
「むしろ、これを軸に使わないと、もう何週、何ヶ月も前にアプリを開かなくなったけど、ユーザー情報を消し忘れた子にいいねを送っちゃうからな」
「いいね数も有限だし、自分を見てくれた上で断られるならまだしも、見られれ可能性すらない相手を選ぶのは避けたいですね……」
「だろ? 並び替えて、今日は50人ぐらいにいいねしてみてくれ。今日中にマッチするかは五分五分だから、今日は解散。ひとまずファーストメッセージの組み立て方は教えるから、マッチしたら呼んでくれ」
「わ、分かりました! ありがとうございます!」
俺の予想通り、生島に呼び出されたのは翌日だ、