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ダメ出し

「まずはこれだ」


プロフを見てくれてありがとうございます!

出会いがなくて始めました!

普段は都内で営業職をしています!

趣味はゲーム、フットサル、カフェ巡りです!

一緒にゲームをやったり、運動できたら嬉しいです!

 

性格は明るいと言われます!

あんまり悩みがないタイプなので、一緒にいたら楽しいかもしれません笑

 

まずは気軽にお話できたらうれしいです!

よろしくお願いします!


「どう思う?」


 生島の視線が読み終わったことを告げるまで待ち、聞いてみる。


「僕は……全然良いと思います」

「ぱっと見はそうなんだよ。でも、実際には減点ポイントがたくさんある」


 文の上から順に指でなぞっていく。


「見てくれてありがとう……は自己満のレベルだけど、あっても良い。誠実だと思わせるのは、このアプリでは重要だからな。その次の『出会いがなくて始めました!』はアウトだ」

「こ、これがアウトなんですか? 出会いがないからアプリを始めるって、真実じゃないですか」

「そう、真実ではある。それは女性側も同じこと……だけど、モテない男はモテないんだよ」


 モテない男はモテない、とは同じことを二度言っているだけのように聞こえるが、実際には違う。

 女性から「この人はモテるんだろうな」と思われる男には、心理的にプラスな効果が働く。

 並んでいる飲食店が気になるのと同じ心理だ。

 もちろん、「自分は並んでいる店には入らない」という逆張りの人間もいるだろう。でも、それは少数派であって、感性が悪い意味でズレていなければ、人気のなさそうなものは選ばない。


「出会いがないから始めたのは百も承知だ。でも、それでも自分で言っちゃいけない。その逆もあるけど……後で説明する」

「わかりました。自分にマイナスに働く要素は除外ですね」

「続けるぞ。『普段は都内で営業職をしています!』は……『都内』がいらないな。そもそもアプリのマッチングは近場に絞られているし、真面目な人は相手のプロフィールを最後まで読むから、勤務地も分かる。趣味も……いいかな。インドアとアウトドア、両方の趣味を書いているのもいいし、カフェ巡りは多くの女子に刺さる。一緒にゲームや運動をっていうのは失敗だな。おしゃれなカフェを探しましょうでいい」


 マッチングアプリでカフェ巡りが流行ったのは数年前で、今では下火になっているけれど、それでも十分戦える。


「性格の部分は……『あんまり悩みがないタイプなので、一緒にいたら楽しいかもしれません笑』はアホっぽく見られるな。楽しいかもも、こう書くなら言い切りの方が印象が良い」


 実物がどうかではなく、思い切りよく申告できるかの方が重要だ。


「とりあえず、このプロフィールはこんな感じだな。次はこれだ」

 

はじめまして。

真剣に付き合える恋人を探すために登録しました。


仕事はSEで、大変ですがやりがいを感じています。

性格は温厚で優しい方だとよく言われます。以前は友人が二時間ほど遅刻してきましたが、その時はカフェで時間を潰していました。

また、恋愛相談をされることも多く、日によっては朝まで電話してしまいます。恋愛の経験値は人より多いと思います。


休日は家で映画やアニメ鑑賞をしているので、お家デートができたら嬉しいです。


まずはメッセージからお願いします。

いいねしてください。


「これは中々に酷い」

「僕としては、さっきのプロフ文より詳しく書いてあって、良いかなって思いました」

「詳しく書くのは良いことだな。でも、これは要らない部分を詳しくしてる」


 文章の頭から、改めて解説を始める。


「『真剣に付き合える恋人を探すために登録しました』……ここまでは良い。むしろ、ここまでしか良くない」

「ここまでですか!?」

「あぁ。その次の仕事の紹介は、『大変ですがやりがいを感じています』がありきたりすぎる。もう少し具体的に、かつ分かりやすく書かないなら無くてもいい」

「性格のところは分かりやすくないですか? エピソードもありますし……」

「『性格は温厚で優しい方だとよく言われます』の『よく』は要らない。次のエピソード、書いたやつは『遅れてきても全く気にしない自分』をアピールしたいんだろうが、エピソードが弱いし厚かましさも感じる。自分が遅れた場合、ネチネチ言われそうだと思わせるし、そもそも『約束に遅れても良い相手』だと思われる可能性がある」

「そ、そんなところまで気にしないといけないんですか……」

「男は、そんなわけないと思うよな。でも、マジなんだよ」


 男より女の方が、人の背景や意図を色彩豊かに読み取る。

 視点自体が違うから、独学で異性の思考を学ぶのは骨が折れる。


「あと、ここも良くないな」


 恋愛相談をされることも多く、日によっては朝まで電話してしまいます。恋愛の経験値は人より多いと思います。この部分を爪で叩く。


「恋愛相談をされるアピール。これは女友達が多い、つまりモテているんだと勘違いしがちだが、多くの女性にとって恋愛対象に入れていないことを意味してる。日によっては朝まで電話するというのも、付き合った後に浮気されそうという疑念を生みかねない。極め付けは恋愛の経験値についてだ。これこそ、自分で言っちゃいけない典型なんだよ」

「……自分で言うと、かなり嘘っぽいですね」

「本当にモテてるやつで、自分から『俺はモテてる』って言うやつは少数派だな」


 いないわけではないが、見た目から飛び抜けていないと鼻で笑われてしまう。


「ここからも問題だ。『休日は家で映画やアニメ鑑賞をしているので、お家デートができたら嬉しいです』だけだと、相手にインドアに偏った印象を与えるだけでなく、ヤリモクだと警戒される」

「ヤリモクって、その、性的な関係を望んでると思われるわけですよね。いきなり密室で二人きりをチラつかせてるわけですし……」

「正確には、性的な関係を望むことは悪いことじゃない。人間だって動物で、子孫を繁栄させるっていう目的があるからな。ただ、それだけって思われるのがまずい」


 中学生、高校生の恋愛とはわけが違う。

 付き合うのに身体の相性だって重要になってくる。


「最後の『まずはメッセージからお願いします』も何様だっていう話だし、『いいねしてください』も弱々しさが出てる。全体的に女々しいんだよな」


 生島は、自分が言われているかのように口を固く結んでいる。

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