プロフィール
気付いたら「来島」が「生島」になっていました。
面倒なので変えません。彼は今日から生島です。
「い、インストール……できました」
生島のスマホに、現代でトップクラスに出会いを増やすことができるツールが追加される。
青い背景に白い丸文字でアプリ名が書かれていて、デザインから清純さを読み取ることができる。
実際、このアプリは他のマッチングアプリに比べて「真面目」な層が多く、生島のような初心者にはもってこいだった。
「このアプリは、メッセージ力を高める最初の段階として相応しいアプリだ」
「アプリによって違う……んでしたっけ」
「あぁ。たとえば、簡単に性的な関係に持ち込める代わりに、男性側に高いビジュアルが求められているアプリ、外国人男性と出会いたい日本人女性、日本人男性と出会いたい外国人女性が多いアプリ、恋人になるもセフレになるも男の力量次第なアプリ、色々ある。その中でもこのアプリは、男女のレベルの平均値が低めなものの、真剣に恋人を作ろうとしているユーザーが多い。一つ一つの出会いを大切にする子が多いってことだ」
「初心者に優しいっていう理由がわかりました」
一つ一つの出会いが大切というのは、裏を返せば「出会いがない」ということにもなる。
残念ながら、このアプリのメイン層は普段から異性に相手されない男女だが、その代わりにマッチング一つあたりの貴重さを知っていることになり、多少メッセージが下手であっても、経験を積むことができる。
「これからお前が戦うのはスライムだ。スライムと戦ってレベルを上げて、もう少し強い相手と戦ってもらう。そうやって強くなっていけば、佐藤さんに一発くらいは攻撃を当てられるようになるぞ」
「一発……だけなんですね」
「むしろ一発でも当てられたら大したもんだよ。じゃあ、アプリを起動させてくれ」
控えめなスマホのタップ音とともに、アプリが起動する。
アプリのロゴが出た後、アカウント作成へと続く。
「電話番号入力とかは適当にやって、名前を決める時になったら呼んでくれ」
そう言って、俺は自分のスマホを操作する。
生島のとは違うアプリを開くと、メッセージが三十件ほど溜まっていた。
面倒だが、メッセージを無視していると、システムにアクティブな会員だと認められず、他ユーザーへの露出が下げられる可能性がある。
また、メッセージを無視することで、自分の理性をコントロールできない女子からブロックされてしまうと、同様に悪質なユーザーだと判断されてしまう。
まめな男がモテるというのは、現実世界だけでなく電脳世界でも同様なのだ。
「先生、できました」
生島の番号登録が終わったようなので、そちらへ集中する。
「最初は名前だな。なんて入力するつもりだ?」
名前は「優希」だったな。
思い出していると、生島はそのまま「優希」と入力して、俺に見せた。
「ダメだ」
「なんでですか!? じ、自分の名前を使わない方がいいってことですか?」
「インターネットリテラシー的にはそうだろうな。でも、理由はそうじゃない。大学でも同じことだけど、自分が当たり前だと思っていることは、他人にとって当たり前じゃないかもしれない」
「……それと名前に、どんな関係が?」
「中には、優希って名前が読めないやつもいる。それに、漢字よりひらがなの『ゆうき』の方が親しみがある。だから登録するなら『ゆうき』だ」
他にも偽名で登録するとか、絵文字で登録する方法もある。
だが、偽名の場合は他のメッセージアプリに移動した際に混乱を招いたり、要らぬ誤解をされる可能性があるため、明らかに偽名っぽいもの意外は除外。明らかな偽名に関しても、イケメン以外が使うと単純に痛い。
絵文字で登録する女子は多いが、その多くが夜職だ。仕事用とプライベートのアカウントを分けていないとかで、自分の本名を知られたくない女子がとりがちな手段で、男がやると、同じく夜職だと思われる可能性がある。
ということは、真面目な女子にとっては「お店に誘導されるかもしれない」という不信感につながり、コミュニケーションにマイナスに働いてしまう。
「次は写真登録だな。さっき選んだ写真を、自分の写真から順に登録していこう」
「猫が最初じゃダメなんですか? まだ少し抵抗感があるっていうか……」
「割合の話じゃないけど、一枚目で興味が持てなかったら左スワイプ……つまり断る人間は多い。俺は中身で勝負するってやつがいるけど、そもそも中身を見たくなるパッケージが必要なんだよ。努力もせず中身を見てほしいなんていうのは、自分が努力しない理由を作って精神を落ち着けてるだけだぞ」
俺の言葉を受けて、生島は正しく写真を設定する。
「よし、ここからが重要だな」
「次は……プロフィール入力ですか?」
「あぁ。写真が大切って話はしたと思うけど、プロフィールも同じくらい重要なんだよ。プロフィールに何を書いて書かないか、読む子がどう思うか。それを予想しないと、マッチングアプリでは勝てない」
なるほど、と言った生島だが、まだ真の意味では理解していない。
ひとまず俺は自分のスマホを開いて、いくつかの文章を見せる。