4.明かされた答
「これが問題の『漬け物石』ですかぃ……」
村へ着いて早速問題の「漬け物石」を見せてもらったんだが……当たりだな。
気配が薄いんで素人は勿論、死霊術師以外にゃちと判りづれぇだろうが、亡魂の気配が馴染んでやがる。……寄坐として使われてたなぁ間違い無ぇな。
……そう言ってやったら、世話役の旦那は素より、漬け物石にしてた連中も青くなってたがな。
「悪さをするでもねぇ亡魂が寄坐にしてただけってんなら、邪気だの死の気配だのが感じられなくっても、別に不思議じゃありませんや」
教会のお偉方だって、こういうケースは想定してなかっただろうからな。気付かねぇのも無理ねぇやな。
「しかし……唯の石が寄坐に?」
「あ、いえね、〝唯の石〟じゃなくって、こりゃ……一種の墓石みてぇなもんじゃねぇかと」
「墓石!? ……しかし……あの場所からは遺骨も何も出なかったが……?」
多分それで「墓」って可能性を棄てちまったんだろうな。けどよ、俺ぁ「賢者」のやつから聞いた事があったんだわ。舎監とか寮母とか……いや、陵墓制っつったかな?
――両墓制。故人の遺体を埋葬するための「埋め墓」と、故人の霊を祀って供養するための「参り墓」の二つを設ける墓制。両者の位置関係や改葬の有無などにより、様々なヴァリエーションが生じる。
埋め墓と参り墓は必ずしも近接しておらず、遠く離れた集落外に埋め墓を設ける場合もある。
「つ、つまりこれは『参り墓』だと?」
「へぇ。そんで――年に一回、あの世から舞い戻って来た亡霊様方が、こっちに滞在中の寄坐にしてたんじゃねぇかと」
「賢者」のやつぁ〝ボン〟とか〝ハロウィン〟とか言ってたっけな。年に一遍、あの世から祖霊ってのがこの世にやって来るんで、それを歓迎する儀式があるんだとか。
――自分たちの祖霊を一族の守護神として捉え、年中行事の一環として彼らを祀る風習は各地にあるが、その祀り方は大別して二通りある。すなわち、自分たちで墓所に赴き、そこを綺麗に清掃してから直会――宴会とも言う――を執り行なうやり方と、逆に祖霊を自分たちの屋敷へ迎えて祀るやり方である。日本の「盆」はその両方の性格を併せ持つが、中国の「清明節」は前者の、ケルト系の「ハロウィン」は後者の性格が強いと言える。
ただし何れにせよ、一神教が卓越する地域では、このような祖霊祭祀は駆逐される傾向にある。「ハロウィン」はその例外とも言えるが、あれとてキリスト教の「万聖節」の宵祭り的な扱いであり、「ハロウィン」そのものはキリスト教では公式に認められていないという。
昔ここに住んでた連中はいなくなっちまって、慰霊祭も執り行なわれちゃいねぇだろうが……亡霊様方――いや、祖霊様方は、同窓会とか県人会みたいな乗りで集まってたんじゃねぇのか。
なのに、お仲間との再会を楽しみに舞い戻ってみりゃあ、定宿にしてた墓石が無ぇ。そりゃ、祖霊様方もお困りになるってもんだ。
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こん時ゃ結局、墓石を媒体にしてどうにか祖霊様方との交信が成立したんだけどな、大筋で俺の読みのとおりだった。
こりゃ死霊術師でもなけりゃ祖霊様方が何をお腹立ちなのか、とんと不可解・難解の至りだったろうぜ。
村じゃ畑の真ん中に慰霊碑をこさえて、その周りに墓石を――できるだけ元の通りに――並べて祀り直したそうだ。
おかしな話だが、こーゆーのも死霊術師の仕事なのよ。
今回はこれにて終幕となります。