3.予備検討~死霊術師の推理~
はてさて、こいつはちっとばかし難問だぜ。
教会だの調査委員会だのが調べ上げて、悪霊怨霊の気配は無ぇと太鼓判を押した場所に、突如として怨霊の群れが湧いて出た。
……てぇ事ぁ……この「怨霊の群れ」は元からそこにいたんじゃねぇ。どっかからかやって来たもんだ――って考えるのが妥当だよな。とすると、気になるなぁ当然〝どっから来たのか〟って事だろうが……今はそれは措いとこうか。
悪霊祓いを仰せつかった俺が探るべきは、〝どうやったら件の怨霊様――聞いた感じじゃ「怨霊」とも思えねぇな――改め、「亡霊」様方にお引き取り戴けるか〟であり……その前段階としての〝亡霊様方はなぜ、そしてどうやって、村を訪れたのか〟って事だよな。
「怨霊たちが『返せ返せ』と騒いでいたのは……」
「並べて見せても気に留めなかったってぇんなら、そいつが執心の元たぁ思えませんな」
駆けずり廻った村役さんたちにゃお気の毒だが――な。
「全くの無駄足だったというのか……」
おっと。凹んでるみてぇだから、フォローってやつを入れとくか。
「そりゃ違いまさぁね。そちらさんが骨折ってくれたお蔭で、埋納物が原因じゃねぇって判ったんで。こりゃ、充分にありがてぇお力添えですぜ」
〝除外できる可能性は早いうちに除外しておくべき〟――って、「賢者」を自称する地縛霊のやつも言ってたしな。
今はそれより……
「検討を先に進めますぜ? 亡霊様方がそちらの村に押し寄せた理由ですがね、可能性としては二つ考えられるように思うんですがね」
「二つ……?」
「へぃ。正しく村に辿り着いたのか、間違って村に辿り着いたのか」
「間違って……?」
「その場合、今まで目印にしてたもんが無くなったんで迷い込んだ……って事になりやすが……?」
「……あの石碑か……」
世話役の旦那は愕然としてるが……
「――けどね。俺ぁこの可能性は高くねぇんじゃないかと思ってます。場所が違うと判ったんなら、怨霊様方だってどっかへ行っちまうんじゃねぇか――ってね」
「そ、そうなのか?」
「ま、現場も見ずに確かな事ぁ言えませんがね」
だったらさっさと現場に向かう――って言いたげな世話役殿だけどよ……もうちっとばかしお付き合いを願いてぇな。
「で――亡霊様方が〝正しく〟村に辿り着いたって場合ですが……この場合、亡霊様方の目的地は今の村じゃなく、そこにあった『村の跡』だった筈で」
「……そうなるだろうな」
ふん……ここまでの推論に抜かりは無ぇ筈だ。問題はこっから先だよな。
「続けますぜ? そちらの村ですがね……村自体は去年や今年できたもんじゃねぇでしょう? もっと以前からあった筈だ」
「そのとおりだ」
「なのに――去年までは亡霊様方はお越しにならなかった?」
「……そうだな」
「今の村の居住地ってなぁ、そのサイキ跡地――」
「『祭祀跡地』――だ」
「……祭祀跡地を潰して新しく広げた畑ってのと近いんでしょう? なのに、今までは何も迷い出て来なかった?」
「……確かに……言われてみれば」
だったら悩む事ぁ無ぇ。「祭祀跡地」ってのを潰したのが原因だろうよ。……潰してから暫く経って迷い出て来た理由は解らねぇけどな。
「しかし……今更畑を潰すというのも……」
「ま、もうちっとばかしお付き合いを。……その亡霊様方ですがね、毎回最初は祭祀跡地――改め、畑――に集まって、そっから村の方へ彷徨い出て来る……これに間違いありませんかい?」
「あ、あぁ……そのとおり、間違い無い」
「てぇと……聞いてる限りじゃ亡霊様方は、何かを探してるみてぇに思えるんですがね」
「何かを……?」
「へぇ、亡霊様方が落ち着くべきところに落ち着くための『何か』を。それが見つかんねぇもんで、亡霊様方も落ち着けねぇ……って感じに思えるんですがね、俺にゃあ」
「しかし……そうすると必然的にその『何か』は、〝祭祀跡地から持ち出されたもの〟――という事になるが……」
俺が直ぐに思い付いたなぁ石碑だ。破損してたそうだが遺物にゃ違ぇ無ぇんだから、どっかに保管されてんじゃねぇかと踏んだんだが……
「いや……確かに遺物は遺物なんだが、王都に持ち帰るほどの価値があるかどうか微妙という事で、礼拝堂の倉庫に保管……される予定になっていたんだが……」
世話役の旦那の話だと、その倉庫の中が満杯で空きがねぇって事で、今は倉庫の傍らに放置してあるそうだ。
「……放置ではなく安置だ。とは言え、亡霊たちが見つけようと思えば、直ぐに見つけられた筈なんだが……」
「そう考えると、持ち去られたなぁもう少し小さくて目立たないもん――って事になりやすかね」
「しかし、盗掘品以外でその条件に該当しそうなのは……漬け物石か!」
「……漬け物石?」
何の事かと思ったら……村の連中、祭祀跡地から持ち出した「石」を、丁度手頃なサイズだってんで、漬け物石に使ってたらしいんだ。そりゃ、亡霊様たちもお腹立ちだろうよ……俺の考えが当たってりゃな。
こっから先は現物を見なくちゃ始まらねぇってんで、俺ぁその村に出向く事にした。