2.持ち込まれた難題(その2)
「まず、墓地でない事が確実になった。何でも〝死の気配〟が染み着いてなかったそうだし、その後で実際に開墾した時にも、遺骨の類は出て来なかったしね」
「然様で……」
「教会の方でも見た事の無い形式だというんで、儀式に先立って発掘調査を行なったんだ。その方面に詳しい学者まで招いてね」
「そりゃまた……至れり尽くせりってやつで」
「で、発掘調査の結果、生贄を伴う供儀の痕跡は見られないという結論になった」
「……人身御供の可能性は無かったって事で?」
「そう結論付けられている」
生贄にされたやつの怨念でも取り憑いてたんじゃねぇかと思ったが……この線は無しか。遺骨が出て来なかったって事ぁ、大規模な人死にがあった場所って訳でもなさそうだし……。第一、死の気配が感じられねぇってんだからな。
「そうなると何かの祭祀遺跡の可能性が強まったんだが……調査の結果は否定的だった。教会の聖魔法とやらで調べてもらったんだが、大規模な儀礼が行なわれていた痕跡は無いそうだ」
「へぇ……」
「言うまでも無いが、何かの悪霊を封印していたとか、そういう可能性は真っ先に否定された」
「はぁ……」
「小規模で土俗的な祭祀遺跡の可能性も捨てきれなかったんだが、それにしては肝心の遺跡の規模が大きい。過去の遺跡を利用して、細々と何かの祭祀が執り行なわれていた可能性はあったが、この場合も然したる問題は無いだろうと判断された」
……まぁなぁ。単に祭りを中断しただけなら、神様のご加護が消えるだけだもんな。祟りまでされるような事は無ぇか。……その祭りが祟り神の鎮魂だとか、悪霊封印の儀式とかなら別なんだが。その可能性は無いってんだからな。
「それもあるが何よりも、肝心の場所が放棄されてから長いという事実がある。既に祭祀も絶えている筈だし、今更整地したからといって祟りなどは無いだろうと言うんだな」
なるほど、こりゃ道理ってもんだ。
「まぁ最終的に調査委員会が下した結論というのは、当該遺跡は何かの祈念碑のようなものだろうというものだった」
「記念碑――ね」
「一応鎮魂の儀式を施した後で、その広場を開墾して畑に変えたのが一年近く前。ちなみに、開墾作業中にも変事は起きなかったし、変なものも出て来なかったと報告された……当初は、ね」
「……なるほど、〝当初は〟」
「あぁ〝当初は〟」
――どうやらこっからが話の本筋らしいな。
「おかしな事が起き始めたのは昨年の秋、収穫祭の頃だった」
「ちょいとお待ちを……おかしな事が起き始めたなぁ、その……サイシ跡地を潰してから、どれくれぇ後の事なんで?」
「一年……は経っていなかった」
「……一年近く、何事も無く平穏に過ぎてたって事で?」
「あぁ。それもあって、当初は祭祀遺跡との関連は疑問視されていたわけだ」
「なるほど……続きを」
「続きと言っても、さっき話したような事が起きただけだ。村の連中も最初のうちこそ怯えていたが、別に祟りが無いと判ってからは、酒を片手に見物するようなやつまで現れる始末でね」
「そりゃまた何とも……」
「ところが――ここでさっき触れたような〝返せ返せ〟コールが露わになった。誰かが遺跡から何かを持ちだした結果の騒ぎだとすると、今後被害が大きくなる可能性も無視できないし……第一、外聞が悪い。〝遺跡荒らしの村〟などという風評が立つのはね」
「なるほど……?」
ここまでの経緯は解ったけどよ、そこで何で俺なんだ? 行き掛かりから言っても、調査委員会だか教会だかに話を持って行くのが筋だろう?
「残念だが、それは無理というものだ。教会は既に、当該遺跡は無害であると結論付けて、鎮魂の儀式まで終えているんだ」
「あぁ……下手すっと教会の顔を潰すって事ですかぃ」
仮に担当した神官が気にしなくても、論うやつはどこにでもいるからな。余計な火種は持ち込まねぇのが吉だろう。
「で――死霊術師ギルドに話を持ち込んだんで?」
「いや、その前に我々の方で簡単な訊き込みを行なった。……件の遺跡から何か持ち帰った者がいないか――とね」
……なるほど。デリケートな話になるからな。他所者が首を突っ込む前に、自分たちで調べた方が無難だろうって判断だな。
……で、結果は?
「まず、幾人かが石を持ち帰ったと回答した。例の石碑の周りに散らばっていた石だ。既に委員会による調査で、神の聖気も死の気配も無いと判断されたから、持ち帰っても構わないと考えたそうだ」
「なるほど……」
「そこで――石以外に何かを持ち帰った者がいないかと追及したんだが……」
「……いたんですかぃ?」
「遺憾ながら……」
石を持ち帰ったやつの何人かが、石の下からちょっとした細工物なんかを掘り出したらしい。そのままこっそり持ち帰ったそうだが……中の一人がそいつを馴染みの故買屋に売ったってんだな。
手癖の悪いやつを締め上げて話を聞き出した顔役の一人が、その故買屋に向かって事情を話し、首尾好く買い戻す事はできた――故買屋だって祟り絡みのブツなんか扱いたくねぇだろうからな――そうなんだが……
「……それらをどうするか、上手い算段が付かないんだ」
試しに遺跡の跡地に置いてみたが、怨霊どもは気にする様子も見せねぇらしい。村の連中も扱いに困って――
「……死霊術師ギルドに話を持ち込んだって事ですかぃ」
「そういう事だ」
やれやれ、面倒な話を押し付けられちまったな。