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04.タイトスカートから伸びるストッキングは最強

店の裏口から出ると、そこでは店長がタバコを吸っていた。


俺が現れたのを気付く前にふっと吐き出した紫煙の臭いにわずかに眉をしかめる。


「またこんなところでタバコ吸ってるんですか」


「店の中じゃ吸えないんだからしょうがないでしょー」


ピシッとしたシャツにジャケットとタイトスカートの装いで、そこから見える黒いタイツが眩しい。


黒いのに眩しいわけないだろとかツッコミは無しで。


服に締め付けられた腰は驚くほどに細く、その上下との落差は古くさい擬音を思い浮かべそうになるほどだ。


長い黒髪は腰まで伸びて、シャンプーするだけでも相当な手間だろうと察せられるが、それでもしっとりと輝いているのに身だしなみへの気の使い方がわかる。


キリッとした目に高い鼻が合わさって、二本指でタバコを吸う姿まで様になっているのは流石だが、それはそれとしてあまり近寄りたくはない気持ちはわかってもらえるだろうか。


気付けばサボってタバコ吸っているのがなければ仕事できる美人なのにもったいない。


まあそんなこと直接言うと殴られそうだから黙ってるけど。


それに女性に気安くそんなこと言える性格でもないし。


ちなみに年齢は聞こうとしたら無言の怒気に威圧されたことがあるので未だに不明。


容姿も仕草も大人びて見えるが、さほど歳を取っているようにも見えないので、三十行くかいかないかくらいかと推測しているのだが女性にとってその前後は特にデリケートな問題なのでやはり怖くて口にはできない。


「そうだ生坂」


「どうしました?」


チャットモードになった店長に聞き返す。


ちなみに生坂というのは俺の名字。


「今週の日曜暇?」


「えーっと、日曜は課題やらないとですね」


「それ、噓でしょ」


「よくわかりましたね」


課題があるのは本当。


ただし日曜にやらなきゃいけないというのは噓。


だって日曜の夜に働きたくないんだもん。


そもそも暇?って聞いてくるのが卑怯だよなあ、最初から日曜シフト入れる?って聞いてほしい。


そうしたらストレートに無理ですって答えるから。


「どうして嘘だってわかったんですか?」


「そんなの、目を見ればわかるでしょ」


「そもそも俺の目見てないじゃないですか店長」


ずっと煙草を咥えてるし、そもそもこっちを見てはいるけど視線は合っていない。


いや、俺が女性が苦手で目が見れないとかそういうのではなく、ね?


それを指摘すると、たばこを指で摘まんで腕を避けた店長が俺にグイっと顔を寄せる。


視線のすぐ先には結構な美人、そこから生まれるどちらかといえばイケメン寄りのモーションに自然とドキリとしてしまう。


普段からキッチリしているわけではないが、コミュニケーションとネゴシエーションにそれが必要とあれば自由に使いこなせるのがこの人の凄いところであり怖いところだ。


「これでいい?」


「よくないです」


解放された俺は、それでもしばらく心の平穏が戻らなかった。


俺は美人に弱いんだから勘弁してほしい。


まあかわいい女子にも弱いんだがな!


「それで、日曜人足りないんですか?」


「まあ私がシフトに入れば回らなくはないんだけど」


「じゃあ働いてくださいよ」


「馬鹿を言うな」


馬鹿じゃないです。


「私が働かないといけない状況っていうのは、つまり誰か休んだから人が足りなくなる状況ってこと。そうなったらお前らも困るでしょ」


「まあそうですけど」


「だから私は働いてない時が一番いいのよ」


「警察官は暇してるくらいがちょうどいいみたいな理屈ですね」


一理あるという気持ちと、詭弁だって気持ちが半分ずつくらいあるから困る。


「まあ詭弁だけど」


「自分で言っちゃったよ!?」


真面目な話をしている風の空気が台無しだ!


「というわけで、日曜暇?デートの予定でもあるとか?」


「そんなのありませんよ」


答えてから、俺の予定が空いてると言質を取るためのジャブだと気付く。


「じゃあ日曜シフト入って」


「えー、明日講義なのに夜まで働きたくないじゃないですか」


ぶっちゃけた本音だが、そもそも本来シフトにはいる必要がないという道義的優位があるのでこれくらい自由に意見しても許される、はず。


まあ本気で人が足りないというなら働くのもやぶさかではないのだが、自分の心の安寧もお金と同じくらい大切なのだ。


まあ翌日講義で夜まで働いていることも普通にあるのだが、そこは当日日曜日と翌日月曜日という心理的負荷を加味していただきたい。


「なら昼から夕方まででもいいわよ」


「夜は大丈夫なんですか?」


「生坂が昼に出てくれるなら私はその分寝てられるからね」


まあ何かあったら店長が対応するんだが、本当になにかあるまでは時間帯責任者が処理するので店長がいなくても大丈夫にはなっているのがこの店のシフトのゆとりだ。


「昼と夜のダブルヘッダーは回避したいからなー」


「店長は個人事業主だから労働基準法には引っかからないのでは?」


「法に触れなければ何をしてもいいってわけじゃないのよ生坂、それにそんなに長時間働いたら疲れるでしょ」


「それはごもっともで」


こうやって現在進行形でサボってなければ、なお説得力はあっただろうけど。


まあ日曜はサボれないって言うなら事実そうなんだろう。


そして世界平和の為にはみんながちょっとだけ優しくなればいいんだよ、というスケールのでかい精神で俺は店長のリクエストを受け入れることに決めた。


「じゃあ昼から夕方までで」


「さすが生坂、諦めるのが早い」


それ褒めてないよね?


まあ感謝されてるのはわかるからいいけど、本質的に美人に頼まれると弱いという事実はどうにか隠蔽しておきたいところだ。


しかし日曜は毎度昼まで寝てるから起きられるか一抹の不安がある。


「そうだ店長、朝起きられるようにモーニングコールしてくれませんか」


というのは会話の締めの軽いジョーク。


「甘えるな」


「あいてっ」


デコピンで弾かれたおでこを抑える。


まあ最大限配慮された威力で本当は痛くはないけど。


「私は労働時間中のお前の仕事に対する責任と給与を払う義務を負うけど、それより前と後の時間のことは知らないし責任も持たないわよ」


ぐうの音もでない正論。


まあ本当に困った事情があったら店長は最大限配慮してくれるだろうけど。


なので、「はーい」と素直に答えておく。


「それじゃあお疲れ様です」


「うん、また明日」


「俺は明日休みですよ」


「知ってるわよ」


楽しそうに微笑する店長に一本取られてしまった。

個人的な好みを詰め込んだ店長回でしたー。


そのうちまた再登場させられるといいな。(予定は未定)


次回はまた明日、女友達のお話です。

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