父を寝取られたので対抗します。拳で
異世界転生、そう聞くと何を思いつくだろうか。
王道としてはチートをもらって俺TUEEEEだろうか。
それとも死んでも蘇るとか変な生物になっちゃうとかだろうか。
後は悪役令嬢ものとか流行ってたよねHAHAHA。
‥‥‥笑えねぇよ。
貴族ってやつに転生したらしい。
悪役令嬢とやらに転生した人はよくこの世界に順応できたなと感心したくらいだ。
陰口に広まりやすい噂、いやぁクソだった。
何度ムカついてぶん殴りそうになったか。
ひ弱な私の腕だとあんまりダメージは与えられないだろうなー、と思った。
なので二年前から鍛えている。
しかも公爵の娘だぜ?
前世の記憶なんてもう吹っ飛んでこの生活に順応するために頭変えたわ。
頑張ってた時にも母は私に優しかった。
一応王子様の婚約者なので小さい頃から教育を受けていたのだが、その時にも気遣ってくれた。
今でも膝枕と添い寝の感触は忘れられない。
あの優しい抱擁は絶対に忘れないだろう。
母はツンデレってやつみたいだった。
私から見ると優しくて何でもできて、尊敬してた。
私は、母が好きだった。
一緒に住んでいて嫌いになる要素はなかった。
だがしかし。
ツンデレだから態度は悪かったと思う。
しかし、愛情は本物だった。
しっかり父親にデレてた、私から見て母は父にゾッコンだった。
愛していたのだ。
私の家は公爵家で、かなり偉い方だ。
爵位でいえば一番上だったと記憶している。
つまりものすごーく偉い貴族である。
そんな父だが、貴族だからか愛人がいた。
そして母とは政略結婚で、愛情がなかった。
まあつまり、顛末はわかるだろう。
父はツンデレな母を遠ざけ、何故か私も遠ざけた。
鬱陶しく思ったのだろう、その間に愛している人とおせっせしていたのだろう。
反吐が出るし、あの端正な顔を潰したくなる。
その証拠にあのクソ親父は母が死に、お通夜期間?喪に服す期間?とやらが過ぎると義母と義妹を連れてきた。
やっぱりやることやってやがったのかと思ったね。
新しい母と妹だなんて紹介されたよ。
憎たらしい笑みで宜しくなんて言われたしな。
こいつらのせいであの優しい母が死んだと思うと作り笑顔が消えそうになる。
まだだと堪えて、その手をとった。
握手、虫酸が走った。
吐きそうだった。
「お嬢様」
「‥‥‥何?」
何とか帰ってきて、トイレにこもって吐きまくった。
この別館に少しだけいる使用人の一人が話しかけてくる。
少なくなったのは私のせいだ。
母が衰弱した頃、私はあることを始めた。
鍛錬、である。
どうせ体はドレスで隠れるのだ。
どれだけ鍛えても、どれだけムキムキになってもいいだろう。
その上で前世に見た格闘の動きをコピーしようと奇行まで始めたので離れていったのだ。
まあ、当たり前だネ。
そんな私のそばに居てくれる一人が目の前の使用人である。
「大丈夫ですか?」
「問題ない。だが今は、休ませてくれ。コレット」
「承知致しました」
泥のように、この夜は眠った。
眠れると思っていなかったが意外に眠れた。
夢に出たのは死んだ母の膝枕、案の定起きたら吐いた。
「本当に大丈夫ですか?」
トイレから出るとコレットが目の前に。
意外と表情に出るタイプで、私のことを心配してくれているようだ。
「気晴らしに付き合ってくれる?」
「‥‥‥っ!ええ」
嬉しそうな顔、その顔を見ると私も少し気が晴れる。
まあ、あの二人を許す気はないのだが。
やってきたのは窓のない部屋。
どんな用途に使うのかなど聞きたくもない地下室だ。
そこでコレットと向かいあう。
このために、動きやすい服に着替えておく。
私は名ばかりとはいえ公爵の娘。
命の危険は当然あり、そのための護衛は当たり前のようにいる。
それがコレットである。
嫌でも私のそばにいなければならないわけで、本人は楽しそうにしてくれているのが救いだが。
こうやって鍛錬に付き合ってくれるのも嬉しい。
戦闘スタイルは完全に我流、そこにコレットのアドバイスを加えたものとなっている。
カンフーだったり柔道、合気道などを自分なりにアレンジしたものだ。
ゲームみたいに動き回れるのでこの身体が天才なんだろう、いい感じだ。
コレットにもお褒めいただけて、うむ。
これらを混ぜた新スタイルも開発中だ。
こんなことをしている時くらいが現実を忘れられる時間だなとしみじみ感じる。
「では」
「ええ、来なさい」
まあこんな感じに言っちゃいるがコレットの方が強いんですけどね。
仮にも私が主だし?偉そうに言っとかないとね。
「フフ、ええ行きます」
おお、笑ったなぁ?
いいだろう、頑張ってやるぜぇ。
即落ち二コマ。
イキがったら負ける法則って凄いね。
善戦すらできずに負けてしまった。
息も絶え絶えな私とは対照的にコレットは全く疲れた様子はない。
寧ろ楽しんでいるように見えた。
「‥‥‥」
「どうです?気晴らしにはなりましたか?」
「まあ、それは十分」
「よかった」
コレットは安堵の顔を浮かべてくれる。
女子の笑顔は眼福ものですな。
「さて、着替えましょうか」
「今日は如何されますか?」
「んー、本でも読んでますわ」
「珍しいですね」
コレットは目を丸くして私を見る。
小さい頃は本は読んでたが、二年前から筋トレに全振りしてきた。
別館には書庫があり、母が衰弱してベッドに寝たきりになるまではよく本を読んでいた。
筋トレ始めた当時はメイドさんに止められたし、多分そのせいで離れていったし。
そのおかげでこの別館にいる使用人で、私に話しかけてくれるのはコレットともう二人くらいだよ。
感謝感謝である。