まだ無力者
【0】
───その日、1つの世界から人間が絶滅した。
度続く人間の愚行に怒りと悲しみを爆発させた竜────
いや、「かつて人間だった竜」によって。
これはある青年が感情の暴走で豹変する話、
これは優しさで溢れる世界を望んだ者の末路の話、
これは何処の誰にでも起こる可能性の話である。
【1】まだ何も始まらない
──日本、東京都のとある敷地。
そこにある者がひとり暮らしをしていた。彼の名は········、
フリーター業をして生活している若い男だ。これといった特技も強みも無く、熱中出来る程の趣味も無い。将来何をしたいのかすらちっとも浮かばない、
割とありがちな何も無い男だ。
そんな彼にも理想たる願いがある。
「思いやりのある温かい心で溢れた優しい世界」。
小さな頃からそれを願い続け、親切な行動をとってきた。成人した今も出来る範囲で人助けをしたりさりげない気遣いをしたりとしているが、それでもちっとも足りないと言わんばかりに悲しい現実が彼に、純粋な心に突き刺さる。
「ぼくのおもいやりは無駄だったの?」
そうしていつしか、感情が心という家の内に引き籠るようになっていた。
午後十四時。買い物前にちょっとだけテレビを観ようとしたが
「·····この時間帯はニュースばかりか」
と、つけるのを止めた。
ニュースなんていつもそうだ。いつの時間のものを選んでも同じような、
「良くはない話」ばかりだ。
そればかり流して、何になるのやら。
そう思いながら出かけた。
買い物を終えて帰宅する途中、目に映った。それは、
モニターに映し出されている映像のヒーロー。
そのヒーローは強きをくじき、弱きを助ける。よくある定番のヒーロー作品だ。
子供に大人気で、大人も好きな人は好きな作品。········もそれなりに好きな作品だったのでしばらく見入っていた。
映像がEDに入った時に帰宅途中だったのを思い出した。········は早歩きをする感じでちょっとだけ急がせて帰った。
帰宅し、家事を済ませしばらくの時間を置き、寝床についた。
横になり寝ようとした時にあるものが頭によぎった。街中、偶然見かけたヒーロー作品を。そして漏れるように
「あんな力が俺にもあればな」
と呟いた。
まぁでも、無いものは無いから仕方ないかと考え直し眠りについた。