第6章 告白l
第6章 告白Ⅰ
6‐1
ぷるるるっぷるるるっ
携帯の呼び出し中のコールが長く感じる
「もしもし、なっちゃん?」
こうちゃんはいつもと変わらぬトーンで話す
「今日一緒に帰れなくてごめんね。明日は一緒に帰れるから一緒に帰ろうね」
私はそう言った
妊娠のことは直接言いたかったから…帰り道で言おうと決めていた
「うん!分かった!」
こうちゃんは少しテンションが上がったと思わせるような明るい声で言った
「それだけなんだ…ごめんね。こんなことで電話して」
明るい声のこうちゃんとは違って暗い声で私は言った
「ううん。わざわざ電話してくれてありがとうね。声聞けて嬉しかった」
こうちゃんは明るく言った
「ありがと。じゃあ明日ね、ばいばい」
「ばいばい」
そう言って私達は電話を切った
6‐2
いつも通りの帰り道
でも、私にとってはいつも通りなんかじゃない
私にとっては………私の、私達の、運命を決める重要な帰り道
「こうちゃん、私、」
そこまで言ったら、私の目から涙が零れ落ちてしまった
「どうしたの?なっちゃん」
こうちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む
「ごめん…。本当にごめんなさい」
私は何も悪いことしてないはずなのに、涙が止まらなかった
「どうしたの?言って?お願い」
こうちゃんは真剣な眼差しで私を見つめた
「……うん。」
ようやく落ち着きを取り戻した私は覚悟を決めた
6‐3
「私、妊娠したの…」
そう言ったらまた涙が溢れてきた
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
私はどうしたらいいか分からなくなって、何度も謝った
その間、こうちゃんは黙っていた
「なんで?」
こうちゃんがやっと言った一言
私は言った
「何が…」
6‐4
「なんで謝るの?」
こうちゃんは優しい顔で言った
「だってあたし…」
私は言った
「生んでくれるよね?なっちゃん?」
こうちゃんは私に明るく言った
私は嬉しすぎてさっきよりも大粒の涙が出てきた
「ありがと。こうちゃん」
私はこうちゃんにそう言った
「やったー!僕もパパだよぉー!」
とこうちゃんは無邪気に笑った
私はこうちゃんが
こうちゃんでよかったって思った
私はこうちゃんが
こういう人でよかったって思った
私は
こうちゃんが彼でよかったって思った
ありがとう、こうちゃん。そしてこれから、よろしくね
6-5
「もしもし?麻希?」
その日の夜私は麻希に電話した
「おう夏美。言ったか?桜井君に」
麻希は心配してくれていたのだ
「うん。言ったよ」
私はこうちゃんになんて言ったかとなんて言われたかを丁寧に話した
「よかったじゃん夏美!あたしも応援するからねっ」
麻希はとても喜んでくれた
まるで自分のことのように、喜んでくれた
ありがとう、麻希
6-6
「こうちゃんっ!行こっ!」
私はこうちゃんの手をとった
「うんっ!」
こうちゃんも私の手をとった
こうちゃんの手は少し汗ばんでいた
私たちは2人で病院に行った、仲良く手を繋いで
「愛坂さん」
病院に着いて10分くらいで呼ばれた
私はこうちゃんの手をもう一度強く握った
私が『行こう』と言おうとしたとき
「行こうか」ってこうちゃんが先に笑いながら言ってくれた
「こんにちわ」
中山先生は明るくほほ笑んで迎えてくださった
まるで、お腹の中の赤ちゃんをどうするか決めたかを知っているように
6-7
「先生」
こうちゃんは中山先生に言った
「ちょっと待って。私は担当医の中山よ。あなたは?」
中山先生は言った
「あ、ごめんなさい。僕は夏美さんとお付き合いさせていただいている桜井航祐といいます」
こうちゃんは丁寧に言った
「桜井君ね。よろしく。でお腹の子どうすることに決めた?」
先生は私の顔を見て言った
私も先生の顔を見て言った
「私、産むことに決めました。彼もそれでいいと言ってくれています」
私は言った
先生は
「夏美さん、いい彼捕まえたわね」
と笑って言ってくれた
「私も協力するわね。あらためてよろしく」
と付け足して言ってくださった
ありがとうございます、中山先生