第0章 出会い
0-1
「なにあの子?知り合い?」
麻希が言った
麻希の視線の先には小学生の男の子がいて
その子は私をじっと見ていた
「知らない…」
私がそう呟くと「でもあの子夏美のこと見てるよ」と麻希が言った
0‐2
「どうしたの?」
そう仁百がその子に聞いた
そしたら、その子は走ってどこかに行ってしまった
「なによもー!」
仁百はイラついていた
次の日…その次の日…その次の日…
毎日毎日、その子は私を見つめていた
しかし私は、動いた
「君、何でいつも私を見ているの?」
そう聞いた
私がそう聞くとその子は初めて口を開いた
「可愛いなって。見てる」
そう一言言って走った
「なにぃ〜!?夏美今告白されたよね!?」
そうからかうように仁百が言った
「そんなわけないじゃん!」と私は笑って仁百に言った
でも気になった、その子が。
次は名前が知りたくなった。私は何を考えているのか分からなくなった
0‐3
次の日もその子は私を見ていた
私は気になって仕方がなくて
「君名前は?」と聞いてみた
「それより、あなた名前は?」と逆に聞かれてしまった
「私は愛坂夏美〔アイサカ ナツミ〕」
「僕は桜井航祐〔サクライ コウスケ〕だよ」
その、桜井航祐君はもう走って逃げたりはしなかった
「何年生?」
そう私が聞くと、少し恥ずかしそうに
「6年生だよ」と桜井君は言った
少し照れながら言う姿が、とても愛らしかった
0‐4
「へぇー私は中学2年生ね」
私は知らない間に自分から言っていた
なんか自分のことを知って欲しかったし、知りたかった
「そうなんだ。ねぇ、今日の放課後ここで待ってるから」
そう言って桜井君は走って行った
「ねぇ何話してたの?」
麻希は教室に入った瞬間不思議そうに聞いてきた
「軽く自己紹介かなぁ」
と私は答えた
別になんとも思っていなかったから。桜井君のことなんて
だから『放課後待ってるから』って言われたことも話さなかった
0‐5
「ここで待ってるってどこで待ってるんだし…」
私は1人で教室から出た
今は5時、春だからまだ暗くはない
でもさすがに小学生はもう家に帰っただろう
私は1人、いつも朝登校してくる道を歩いて行った
そしたら、桜井君が1人で小さい石段に座っていた
私は桜井君に近寄った
「なんのよーですか?」
私はいかにも他人事のように話し掛けた
「あっ…ありがとございます。来てくれて」
微妙に改まっていたことに疑問を持ちながらも私は続けた
「だって来てって言ったじゃん?だから来たの。で、なに?」
0‐6
「僕はあなたが好きです」
桜井君はそう呟いた
微かにだったが、重要なとこはしっかり聞こえていた
「ありがと。でもね、お互い名前知ってからまだ2週間経ってないんだぞ?」
桜井君は一般的に見てもとても可愛い顔の子だし
私も嫌いな顔じゃあなかった。だから純粋に嬉しかった。
でもやっぱり、知り合ってたいしてまだ少ししか経っていないのが引っかかった
「それでもいい。今から知っていけばいいと思う。」
彼の目は真剣だった
あまりにも真剣な雰囲気で笑って誤魔化すことも不可能なくらいだった