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vs”大人”と”男”14

 ちょっと描写悩んでるので今後返るかもしれませんが、展開はこのままだと思います。

 全然客が来ない。

 想定していたことではあったが、俺は退屈に耐え切れず叫びそうにすらなっていた。


「全然、客が来ない!」


 結局叫んじゃったわ。

 だが誰も、何も言わない。それどころかこちらに目線も向けてこない。いずれもそこそこ長い付き合いになる連中だからこそ、俺の扱い方もわかっているということか……と、そこで終わっていたのも最早昔の話。


「私がいるじゃないですか」


 突然の大声に鬱陶しそうな顔をしながら、千秋が返事を……返事? をくれた。いや、まあいいんだけどさ、お前よくそんなところで勉強できるね? 海香のゲーム音と茉莉が見てる動画の音でゴッチャゴチャしてるのに、俺が声上げるまで超集中してたし。すごいな。

 そもそもその発言には納得いかない。


「お前もう客じゃねーじゃん……」

「うーわ。聞きました芙蓉さん? 私、もう客じゃないんですって。一回遊んだらポイ、ですかこの人は。はーやんなっちゃいますね」

「その冗談は反応難しいだろやめろや」


 話を振られてた芙蓉はこっちを見てただ笑っている。千秋は本当……メンタル強い奴だとは思っていたけど、尋常じゃないな。「相談」のあったあの夜からまだ半月しか経っていないのに、もうすっかり相談所の一員だ……客、だった筈なんだけどなあ。

 逆に言えば、千秋と出会って、もう半月が経った。

 あの夜、戦闘が始まってすぐに少女たちを逃がしたのは、芙蓉の発現能力『影渡り』による長距離転移だ。詳しい説明を全部省くと瞬間移動と言えなくもないそのチカラで被害者少女たちをこの相談所に匿って、俺たちはのんびり(・・・・)戦闘行為に入ったのだ。とはいえ、スタッフは全員仕事(戦闘)中。明るく暖かくして書置きを残したとはいえ、千秋以外には見知らぬ場所に三人きりとなるとあまりリラックスもできなかったようで、俺が返ってきた時には皆疲れ切っていたのである。

 先に帰っていた茉莉たちが簡単な事情説明はしていたので、千秋に処置(・・)だけしてその日は解散。なんとなくみんな気が乗らなかったらしく、学校をサボって再びやってきた少女たちの前で俺が土下座祭りを開催したところ、なんとか許してもらえたのである……まあ、元からそんなに怒っていなかったっぽいけど。必要なことだったんでしょうしという理解のお言葉までいただいちゃいました、最近の中学生はオトナだね……。

 で、それからボチボチ、三人組は相談所に遊びに来るようになった。いや、千秋だけはそもそも、メンタルケアのために何回か来るようにと俺が頼んだのだが。まさか事務スペースで勉強したり、毎日のように談笑したりするまでとは思わないじゃん? この子たちが図々しいというよりは女性スタッフ陣が歓迎したからなのだが……共感か、同情か。まあ仲良くなるに越したことはない。同情も悪いことじゃないし。

 今日は千秋一人のようだが、三人増えたところで、広く設けたこの相談所にはさしたる問題じゃない。


「でも、確かに。もうちょっとお金払いましょうか?」

「いらんいらん、子供が無理することはない。俺のも冗談……とは言わないが、ぶっちゃけ金はあんまり切実じゃないんだ。それよりは少し宣伝に協力してくれよ」

「あー、そっか。私の学校でも知られてないのは問題ですよね……」


 折角の駅近好立地。子供の相談を受け付けたいんだから、さっぱり知られてないのはまずい。金に困っていないとは言いつつ、相談が少ないのも問題なのだ……千秋の時の様に、本人の心に大きな傷を与えてからでは遅いだろ。

 この子はしっかり立ち直ろうとしてくれてるけどさ。

 

「とはいえ、私、交友関係殆ど一回絶ってるからあまり人づてが無いんですよね。今日は私だけですから、今度七夏と詩織に頼んでおきましょうか」


 また微妙に反応に困ることを。


「……ま、そうだな、ぜひ頼む。当然ながら軽く相談に乗ってもらったくらいのニュアンスでいいからさ」

「そりゃ、全部話したりはしませんし。大丈夫ですよ」

「よし。では見返りに、お前たち3人が我が相談所を自由に相談所を使うことを許そう。お菓子もジャンジャン食べてくれ」

「もういただいてまーす」


 軽く苦笑しつつお菓子を口に入れ、勉強に戻る千秋を暫し見つめる。まあ、辛い思いをした子がこうして笑顔になれるなら、それでいいっちゃそれでいいしな。この場所を作った目的のようなものだ。

 のんびりと流れる時間の中で、茉莉がふとこちらを見て軽く笑っているのが見えた。




「言わなくていいの? 『処置』のこと」


 夜。

 千秋に宣伝の約束を取り付けて数時間、当然彼女は帰宅済み。芙蓉と海香も先に引き上げ、俺が戸締りをしていた時のことだった。……いやだから、俺のが上司なんですけど。いいけどね?


「茉莉か。帰ったんじゃ?」

「ええ。で、もう一回来たのよ。話くらいはしとこうかとね」

「そうか。……助かるよ、俺以外がどう思ってるのかも、聞いてみたかったし」


 暖かい珈琲をもって茉莉が声をかけてきたので、受け取る。……よかった、紙カップだ。洗い物はとっくに済ませていたからな、増えたらちょっと怠いなと思っていた。

 残りの戸締りを終わらせてから、相談所奥のソファに二人並んで腰かける。別にこのソファは海香のゲーム用ではないのだ。二人とも無言で手元の温もりを楽しむこと、暫し。

 気を使ってくれたのか、改めて茉莉が話し出してくれた。

 目は合わせず、二人してどこともなく、虚空を見つめる。


「今回の相談。すごく纏めて言うならば、『悪い異能者の集団に、中学生の女の子が性的な暴行を受けた。首謀者は女の子の同級生で、日常生活の中での恨みがあった。異能者たちと首謀者をボコって問題解決!』そんな感じよね」

「ああ」

「もうその女の子が千秋が襲われることはない。異能者集団も首謀者も壊滅したし、あたし達が見守るから他の誰かに狙われても対抗できる」

「そうだな」

「唯一残った問題は女の子のケア。身体的にも精神的にも長く苦しめられてきた女の子が、過去に折り合いをつけて未来へ歩いていけるようにする、そのお手伝いが私たちの仕事」

「その通りだな」

「身体だけ治して救った気になってるんじゃ、ないわよね?」


 声が俺のほうを向いた。

 俺は視線を向けない。目を閉じて、自問する。俺は何故『処置』を施した? ――千秋の記憶をそのままに、身体だけを半年分(・・・)時間(・・)を(・)巻き戻した(・・・・・)の(・)か(・)?

 それは、千秋本人にも告げていないその施しは、自己満足で何の意味もない……それどころかすべきじゃないことかもしれないと、茉莉は問うているのだ。


「『時間逆行』は凄い能力だし、デメリットもまあ許容できる範囲だから……使っては駄目というつもりはないわ。あなたにしかできないことだしね。でも、本人に告げてない、というか了解を得ず勝手にやったことは、何故? 彼女の身体のことは、彼女が決めるべきじゃない?」


 発現能力『時間逆行』は、対象の時間を巻き戻すという滅茶苦茶強力な能力で、代償も常識的な範囲の物。俺の気力・魔力・精神力をゴリゴリ消費するだけでそんな奇跡を起こせるなら安いもんだろう。なので、騒動が終わった後すぐに千秋の身体に対しこの能力を使用していた。

 それは、何故か。千秋に言わなかったのは何故か。やったのは何故か。答えは出ているようなものだが、上手い言葉が見当たらない。少し時間が空いてしまったが、俺は、目を開く。


「この相談所を立ち上げたのは、理不尽に苦しむ子供たちを、俺たちで救ってやるためだ。大人なら全ての選択を自分で行うべきだし、子供にも基本的には選択の自由があるべきだとも思うよ。けど……乗り越え切れていないトラウマと向き合って、その先の長い人生を考える重い決断を子供に強いるのを、良い大人だと俺は思わなかった。嫌われようが、恨まれようがこの『処置』は(おとな)の決断のもとにあるべきだと思った」

「私たちにも相談せず、ね」

「悪かったよ、でももう決めてた。意味なんてない、自己満足だとは思うが、できるならやってやるべきだと思ってたから」

「どうして記憶は消さないで、身体だけ治したの?」

「んー……記憶は、その経験は、どんなに苦しいものであっても、乗り越えさえすれば糧にできる。身体に対する今回の件の蓄積は、百害があって一利もない。そう思ったから、かな」

「分かったような、分からないような……」


 真剣な目で――多分。そちらを向いていないから確実ではないが――俺を見ていた茉莉から苦笑が聞こえた。そして立ち上がる気配。……話は終わった、ってことか? だが俺も聞いてみたかったことがある。


「お前は俺の判断を、どう思った?」

「仁らしいなーって、それぐらいかしら。最初に言ったけど、あなたがこれで終わった気になっていなければ、私はそれでいいのよ。自分の行動に満足してないみたいだし、これからもちゃんと向き合うつもりはあるんでしょ?」

「勿論だ」


 迷う余地もない。苦しい思いをした奴はめっちゃ甘やかす! 苦しんだ分だけ幸せになれなきゃ、それは嘘ってもんだろう。

 ただ、苦しまなくても幸せになって良い。苦しんだなら尚更、絶対に! っていうだけだ。


「うん、ならよし。女としてのコメントは特に無いけど、時期を見てでいいから本人に伝えるべきね。成長期に6か月分も戻ってたら流石に違和感あるわよ」

「すぐじゃなくていい……いや、すぐじゃないほうがいいよな?」

「まあ、どんな反応していいかわかんないでしょうね、今聞いても」


 紙カップをごみ箱に投げ入れて、茉莉はスタッフ用の出口に歩いていく。忘れ物も何も持っていないから、本当にこの話のためだけに改めて来てくれたんだろうな。

 ありがたい。


「ごちゃごちゃ悩んでないで、明日からも頑張るわよ。きっと、理不尽に苦しむ子供なんて、星の数ほどいるんだから」

「ああ。そうだな、ありがとう」


 じゃあお先に、と言って出ていく茉莉を見送り、ぬるくなった珈琲を飲み干す。

 漸く俺の中で、千秋の相談を解決した――終わったという実感が湧いてきた。

 勿論今後のケアは丁寧にやるとして……初仕事、完了だ。

 そして、少年少女相談所の、子供たちを襲う理不尽との戦いが、今始まったのだ。

 ちょっと幕間が入りますが、これにて第一部終了です。更新の間空きまくってましたが、お付き合いいただいた方、ありがとうございます!

 今後のことや展開の話などはまた別途。

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