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vs”大人”と”男”12

「まさか二重能力者(ダブル)だったとは」


 異形と化した男たちを半数ほど『闇』で拘束し、残りを適当にあしらいながらステージの戦況を見ていて驚いた。

 謙遜して、控えめに言った上で――俺は能力者としてかなり優れた部類だ。その要因の一つが、初見の相手でも大体能力が分かるという点にあるだろう。ふわふわと浮かぶ少女と会話していた時、奴が使っていたのは間違いなく『浮遊』の能力だったのだ、確認のため人質が縛られていた十字架にも触れたから間違いない。彼女は慣れれば姿勢はなんとかなるなどと言ったが、あの姿勢制御に使っているのは歴とした浮遊の能力である。

 だが残念ながら、俺の能力看破も完璧じゃない。俺が能力を看破しにかかった時、その瞬間に使っている能力しか分からないのだ。故に、その時使っていなかった『重力操作』を見抜けなかった。


「しかも同系統、どころかほぼ同一レベルの能力じゃねえか。そりゃ分かんないわ」


 ついでに浮遊少女の台詞からして、彼女本人は能力に詳しくない様子。とすると本気で一つの能力だと思っている可能性があるな。まあいい、考えるのも面倒臭い。今後の反省点にはすべきだが、今日の失敗としてはさほど重要じゃないのもある。なにせ、例え能力がちょっと違ったところで、本来海香の敵になるような力量はなかったのだから。

 大剣状にした『闇』製の武器をぶんぶん振り回していたところを、敵が一人突破してこちらに向かってくる。ステージに向けていた意識をその敵に向けると、隙をついて更に二人。脚力強化タイプと思われる男が先陣を切って飛び掛かってきた……大剣モドキから手を離し、こぶしを握ってソレをぶん殴る。他の二人に向かって飛んでいくような、この、絶妙な調整! 頬骨くらいは折れただろうか、少しは痛い目にあってほしいものだが。

 受け身を取れず飛んで行った男を気遣うこともなく避けた残りの男たちが、それぞれの得物を俺に向ける。


「結構根性ある奴もいるじゃん? どーしてこんなとこにいるのやら」


 ここにいる男たちは恐らく全員が、千秋たち女子中学生を性的に暴行するために集まった奴らだ。能力者たちは用心棒も兼ねているだろうからそれが第一目的ではないかもしれないが、外から様子を見る限り嫌そうな顔をした者は一人もいなかったから同罪だろう。改めて湧いてきた怒りを両の拳に込めて敢えて一歩前に、驚いた顔を滑稽に思いながら近くの奴を殴り潰す。手放していた大剣モドキは勢いのままに、異形が集まっているほうに飛んでいったようだった。質量が人間を押し潰す音が何度か響いて……ここで笑ったら流石に悪役だよなあ俺。


「ははは! 年端もいかない女の子を苦しめたんだ、お前らももっと苦しんでこうぜ!」


 悪役上等! 新たに生成した大剣モドキ……いや、質量をもっと上乗せして、金属部分のデカいハンマーみたいな形にした『闇』の武器を集団に向かって投げる。俺の神贈能力(ギフト)『黒ノ王・マスターブラック』で操る『闇』は重量が水と同じくらい、しかし最大の特徴として、()()()()()()()()()()というものがある。武器のように形を与えればほぼ破壊不可能になるという、特別な性質を持ったフシギ物体だ。飛んで行った大ハンマーモドキの進行ルート上にいた異形どもが、質量に負けて押しのけられていく。十人以上を吹っ飛ばしたハンマーモドキは、体育館の壁に突き刺さって止まった。投げる力によっては壁を貫通して飛んでいくから、力加減が重要なんだよな……というかそもそも本来は投げる物じゃないんだろうが。

 無事に壁でハンマーが止まったのを確認して、もう一度ステージに意識を向けると、ちょうど浮遊少女が溺れたところだった。


「漸く使ったか……」


 晴峰はるみね海香うみか。彼女は()()()魔法使いである。火力砲台、戦場の後ろから高威力を何発もぶっ放すのが彼女の戦闘スタイル。今も奥のほうからこっちに茶々を入れてきている一部の異形と似て、何処からでも攻撃を仕掛けられ威力も出せるが半面近接戦を苦手とする……そんな戦士なのだ。しかし俺は自衛のために後方担当の彼女にも近接戦闘を教え込んでおり、そのためある程度こなせる、が、それだけだ。

 詰まる所、今までは海香がとある事情から手を抜いていただけ。本来の戦い方をすれば、例え敵が『重力操作』なんて強力な発現能力を持っていても海香の敵ではない――まあ、今回は近接戦闘をこなしながら操作できる水分を近くに蓄えて、保険はちゃんと確保しての手抜きではあったのだろうが……。


「拘り過ぎて危機に陥ったのは反省点だな。後で扱いてやる」


 即座に『浮遊』の能力だと断定してしまっていた自分の失態を棚に上げつつ、一度意識の向きを戻して異形どもを見ると、殆どの奴が怪我か戦意喪失で動けないようだった。根性あると思ったのは取り消しかなあと考えつつ全員を『闇』の帯で拘束。攻撃を続けていた一部の遠距離型は目隠しもしておいたから、もう邪魔にはならないだろう。

 ステージでは、ボロボロの『認識阻害』と顔だけを水中に捉われた浮遊少女がもがいている。重力操作が切れたのか立ち上がった海香と、浮遊少女に向けて油断なく構える芙蓉のもとに駆け寄った。


「終わったか?」

「そろそろですね」

「はぁー痛た……助かりましたよ、芙蓉さん」

「いえいえ。私の介入が無くてもなんとかなっていたでしょう」

「俺も見てたぞ。なんとかはなったんだろうが、まあ、なんとかなればいいわけでもないな。帰ったら反省会」

「地獄の特訓付きの、でしょ? うぅーやだぁ……」


 やだじゃねえよ自業自得だ。気の抜けた会話をしつつ、首謀者(と思われる)二人を拘束するために近づく。『闇』でぐるぐる巻きにしてしまうのが一番かな? 重力操作だけでなく浮遊の能力も無意識に解除したのか、頭部を包む水ごと落ちてきた少女に近づき――その目に気づいた。

 ギラギラと、意志の消えていない目に。


「海香!」


 叫ぶが間に合わなかった。

 水で顔を覆われたままだった浮遊少女が一瞬のうちに上昇する。海香が生み出した水の塊には追尾機能が備わっていた筈だが、如何せん少女が速すぎる。拘束するものが無くなった少女は上へ、上へ。すぐに天井に到達し、これも恐らく『重力操作』で天井に穴を開けるとそのまま夜闇に飛び出していく――このまま見失えば、再び探し出すまでには時間がかかるだろう。その間千秋は不安を抱いて過ごさなければならなくなる。

 そんなことを、うちのブレインが許すはずがなかった。


「痛いだろうけど、我慢しなさいよ?」


 屋根を破り、遥か空へ向かわんとする浮遊少女――もとい、重力少女。そのさらに上から進路を塞ぐように現れたのは幻想のような白銀の獣。

 羽ばたきながら急降下してきた堅牢な鎧のヒトガタが、月の光を受けながら大きな得物を振りかぶる。


「あんた達が痛めつけた人のぶんまで、ね」


 決して逃がしはしないと。より強い意志を持って振り下ろされた鈍色の凶器が、少女を空から叩き落とした。

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