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vs”大人”と”男”11

 一般的に能力と呼ばれるチカラは三種類存在する。

 一つは「発現能力(パッシブスキル)」。一人一人内容の違う力が何かのきっかけで覚醒するもの。全ての人間に起こり得る可能性であるが、能力ごとの差が激しいという特徴もある。無敵に近い能力を有する者もいれば、ろうそくに火を灯すのが正真正銘の限界である者もいておかしくはない。

 二つ目は「潜在(せんざい)能力(のうりょく)」。これも、否、これは全ての人間が持つ能力であり、基礎的な力ともいえるもの。肉体の強度、膂力、感覚など元から持つ物をより強力にすることができる。持つ力は万人等しいと言われていて差がないものの、それをどこまで引き出せるかは素質や鍛錬の結果により分かれることになる。

 そして三つ目。これが、海香が持ち得意とする能力。


「おかえしだよ!」


 海香に向かって落ちた十字架は、何処からともなく現われた大量の水に押し流された。声をかき消すほどの音を伴って空に駆け上る水柱は、十字架を浮遊少女へ向かって押し返す。

 『神贈能力(ギフト)』。第三のチカラ。本人の意思も、環境も、きっかけも関係がない。神によって授けられたものだけが扱える特別な能力。海香の持つ『青ノ王・(マスターブルー)』は水を思い通りに操る力を持っていて、生成、状態変化、操作などの全てが思いのままだ。更に魔法として体系化されたものであれば難度に関わらず扱える、その能力だけで水使いとして最上位に立てるほどの圧倒的な能力。

 それを惜しみなく発動した海香に対し、帆風すずも自らの発現能力を行使する。否、改めて行使する必要もない。

 自らと、座した椅子に係る『浮遊』の能力。十字架だけを綺麗に避けて水の柱に直撃したすずを浮かせ、柱の外へ押し出した。


「うまく逃げるもんだね。それで?」


 もう一本、細い水柱を生み出した海香がその勢いに乗って飛び上がってくる。槍を構え、突き出す態勢を取った海香に対しすずも能力の操作を意識。笑いながら海香を迎え撃つ。

 表情に浮かぶ余裕に疑問を覚えた海香だが、躊躇を感じさせない勢いで槍を突き出し、


「っ!?」


 水流を操作。水柱から自分を切り離す。一瞬の後、水柱に幾つもの木片が突き刺さった。すずの攻撃だろうと少し考え、早々に方針転換。水柱を放棄し、足下に空気中の水分を凝結させて足場を作る。それを蹴って再び空を駆けた。


「あら、飛べたの?」

「空中戦は能力者戦闘の基本でしょ!」


 知らないわよ、と言いながらすずはふわふわと飛び回る。後を追う海香にはそこまでの自由度は無かった。薄氷を蹴り、移動した先にまた生み出した氷を蹴る。楽しんでいるかのように動き回るすずの周りを、勢いをつけた海香が縦横無尽に駆け回っていた。それだけなら、海香が優位にすら見える。

 だが実際には違った。


「ああ、もう……しつこい!」


 下からは勿論、上に飛び散っていた物も含めて多数の木片が勢いよく海香に襲い掛かる。その妨害によって海香は、本来なら一歩あれば駆けれた距離で何度も氷を蹴る羽目になっていた。元より『氷』は微妙に能力の対象外である。苦心して作り出した薄氷を更に細かく角度を変え、速度を切り換えて攻撃を避けて、すずに接敵……しかしそれができた頃にはすずは、さっきと違う場所に浮いている。

 それも、織り込み済みだ。


「せいやっ!」

「は?」


 手に持った槍を投げる。一瞬呆けてから、顔面に飛んでくる槍を認識して回避するすずを尻目に海香はもう一歩だけ()に上がった。生み出した氷を強く蹴り込み、すずに向かって宙を駆ける。両手に生み出すのは槍の形をした水……一瞬で凍らせて、氷槍とすれば十分だ。

 獲った、と、本来の目的をも一瞬忘れた海香は本気でそう思った。

 そして次の瞬間には、ステージの床より下の地面に強かに体を打ち付けていた。


「か……はっ」

「私ね、不意討ちが得意なのよ。わからなかった?」


 一瞬、ほとんど聞こえなくなった耳でなんとかすずの声を拾う。しかし海香には分からない、いや、不意討ちが得意だと分かっていたからこそ、やりすぎるくらいに慎重に事を運んだはずだ。

 だが現実、地に這い蹲ったのは海香のほうだった。なんとか身体に力を込めて、込めたが、動かない。


「何、を……?」

「あは、もしかして、本当になんとも思ってなかったの? ビュンビュン攻撃してたのにね、『浮遊』だと思ってたんだ」

「え……?」


 思い出せば、確かに攻撃兼妨害に使われた木片は、天井に突き刺さるほどの勢いを持っていた。『浮遊』の能力は文字通り物体を浮かせる能力、勢い自体は大したものではないはず。落下時だけなら兎も角上昇時にまで――そこまで考えて漸く、海香は気づいた。


「『重力操作』か――!?」

「多分ね。あは! ていうか、名前なんて知らないわよ。それ誰が付けてんの?」

「けどそれじゃ、あなたがずっとそうやって浮いてるのは……」

「できるわよこれくらい、宇宙飛行士の映像とか見たことないわけ? 姿勢の制御は慣れよ、慣れ」

「く、そ……っ」

「やだ、なに? 暴言? こんなに年の離れた女の(わたし)に暴言吐いちゃうわけー? だっさーい!」


 けらけらとすずが笑う。動けないままの海香は、落としていた槍のもとへと這うように移動し――、それを見たすずが笑いを止めた。


「ほんとにやだ、まだやる気なのね。まあ、続けられたらどうなるか分かんないし……そうね。殺しときましょう」


 すずが手をかざす。海香へかけ続けている重力をさらに強めるためにだ。ステージのあった場所から落ち、本物の床に倒れる海香はもうこれ以上耐えられない。それは精神的な話ではなく、肉体が圧迫に屈するのだ。すずは手を前にかざしたあと一度動きを止め、大きく息を吸ってから能力を強めようと、


「海香を離してください、代わりにコレをあげます」


 帆風すずは戦闘のプロではない。

 故に、聞こえた女の声に一瞬気を取られた。目を向けてしまった……尤も、目を向けていなくても、結果は変わらなかっただろうが。

 すずに向かって投げられたソレは、服のいたるところが破れ、血を滲ませた男のような物。


「――お兄ちゃん?」


 次の瞬間、宙に浮いたまますずは溺れた。

 ちょっとわちゃわちゃし過ぎましたかね?

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