結婚を意識した彼女に男らしくないと言う理由で振られました。そんな俺が伝説の美の魔術師と呼ばれるおねぇに愛されてワイルドなイケメンに。いまさら魅力的だと思われても、真実の愛に目覚めたのでもう遅い。
俺の名はユウ。
三年交際している同僚のアヤと結婚を意識し始めた頃、俺は食堂で彼女に振られた。
「ユウ、貴方は私によく尽くしてくれたけど……やっぱり私って、男らしい人が好きなの。だから私達、もう終わりにしましょ!」
周りの女子社員が失笑する中、俺は逃げるように仕事を終わらせる。
そして、やけ酒とばかりにバーを梯子した。
数件目のバーに入ったところで、酔い潰れて意識を失った。
*
頭が痛い……
固いバーカウンターの上で、のそりと首をあげると……
――そこには、化粧をバッチリ決めた少しごついおねぇがいた。
「うわああぁぁぁ!? だっ……誰ですか!」
素っ頓狂な声を上げる俺に、人差し指を立てて彼が笑う。
「やだもう……貴方ったら、何も覚えてないの? 『女なんてもうこりごりだ。俺はあんたと一緒になる!』なんて、熱い告白したんだからぁ~」
酔い潰れたは俺はこのおねぇに言い寄って、真剣な愛の告白をしたそうだ。
彼の名前はレイと言って、その界隈で有名な伝説の美の魔術師らしい。
「ユウ……私が貴方の本当の魅力を教えてあげる」
レイはそう言うと、俺にシャワーを浴びさせて、おもむろに化粧用具を取り出す。
「女もそうなんだけどね……男も化粧すると化けるの」
彼は鮮やかに筆を動かし、俺の肌の下塗りと眉毛を描き上げていく。
繊細で優しげな筆先が肌に触れる度、嫌な気分が消えさった。
仕上げに髪型を整えた後、俺へ鏡を見せる。
「ほらっ! 格好良いでしょう?」
――そこにはワイルドなイケメンが写っていた。
少し太めになった眉と絶妙な加減のアイシャドウが目力を強くしている。
ファンデーションによりメリハリが出た顔に、オールバックに仕上げた髪が男らしさを際立たせた。
「ユウ……今の貴方なら、アヤだって放っておかないわよ」
レイはそう言うと、優しく俺を抱きしめる。
その温かさに心の棘が抜けた気がして、思わず彼に『好きだ』と言いたくなった。
だから、俺は出社して全てに決着を付けることにした。
*
出社すると、アヤが俺に気づいて駆け寄ってきた。
「すごいじゃない! 私の為にそんな風に変わってくれるなんて感激よ」
でも、その言葉はもう俺には届かない。
俺を本当に愛してくれる人に出会えたから。
「俺、真実の愛を見つけたから。今までありがとう……さよなら!」
唖然とするアヤに周囲の女子社員が失笑しているが、俺の頭は別のことで一杯だ。
早くレイの元に戻って、今度はちゃんと告白したいということで。
本作を読んで頂きまして、本当にありがとうございます。
テンプレっぽい感じの作品を一度書いてみたかったのですが、折角なので千文字縛りの起承転結を考える形でやってみました。
文字を削る作業って思ったよりも大変ですが、どこまで削れるかに挑むって面白いです。
また機会があったらこういった作品に挑戦したいと思っています。