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追放、破滅、そして……②


 特定災害級魔獣(モンスター)

 甚大な被害を出し続けながらも、その強大さ故に討伐が果たされずに来た伝説級の怪物。

 この巨大蜘蛛(アトラク=ナクア)も、幾度もの大規模な討伐作戦を難無く退けている。

 いや、退けるなんて表現はあまりにも生温い。

 こいつの討伐作戦に参加した者は、ただの一人の例外も無く――死んでいる。


 当然、戦うなんて選択肢があるはずもない。

 俺たちのパーティーが全力で挑んだとしても、一瞬で全滅間違い無しだ。


 しかし幸いな事に、巨大蜘蛛(アトラク=ナクア)がすぐに襲いかかってくることはなかった。

 ギチギチと脚をすり合わせているだけだ。


(複眼だから判断が難しいが……もしかして、こちらに気が付いていないのか?)


 まだ、気が付かれていないなら。

 まだ、逃げられる。


 盗賊シーフの基本技能は限界まで鍛えてある。

 だから気配を殺すのも、音を立てずに歩くのもお手の物だ。

 そっと出入口まで戻り、この部屋を出て扉を閉めれば――。


 俺はそう考えながら音を立てないようにゆっくりと身を起こす。


 だが、俺はこの時失念していた。

 【気配察知】を過信したアンドリュー達の存在を。


「いつまでもコロコロ転がってないで、さっさと起きろよ負け犬!」


 あまりにも危機感のない声。


 バカな。

 そう思った時にはもう遅かった。

 ギャハハハ、と不快な笑い声をあげながらアンドリュー達が部屋に踏み出したところだった。


「止まれ! 気が付いてないのか、上に――!」


「だから口答えをす――は?」


 それまで上を見ず、気が付いていなかったのだろう。

 俺に言われて初めて巨大蜘蛛(アトラク=ナクア)を見上げたアンドリュー達は、見事なアホ面を晒していた。


 だが、まだだ。

 頼むから落ち着いて対処してくれ。

 まだ逃げられ――。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 部屋中に響き渡るミルティの絶叫。

 巨大蜘蛛(アトラク=ナクア)も流石に気が付いたのか、ギチギチギチと顔を声の方に――部屋の出入口側に動かす。


「クソッ、素人かよ!」


 弾かれたように俺は動き出す。

 巨大蜘蛛(アトラク=ナクア)の注意が出入口の方向に向いてしまえば、逃走すら難しい。

 

 だからまずは、注意を逸らす。

 

「あっちだデカブツ……〈破裂玉〉!」


 懐から出した大きな音を出すだけの魔道具。

 それをあらぬ方向に投げ、発動する。


 パチパチパチッ、と響いた軽快な音の方向に巨大蜘蛛(アトラク=ナクア)の注意が向かう。


(今のうちに全速力で出入口から出れば――!)


 立て続けに失態を重ねたアンドリュー達だが、そこは腐ってもプロの冒険者。

 彼らもこの隙に部屋から出て、扉を閉め始めている。


(よし、巨大蜘蛛(アトラク=ナクア)の注意はまだ戻っていない!)


 確認しながら駆け出した瞬間、信じられない事態が起こった。

 


 パシュッ。



 一瞬、自分の身に何が起きたのか理解できなかった。

 始めにあったのは左脚が動かない、という感覚。

 目を向ければ、左膝に矢が生えていた。


 遅れて認識する。

 先程の音は弓矢を放つ音だ。

 ミルティの矢が、俺の膝を射抜いたのだ。


「なっ――!」


 当然、こんな状態では走って逃げることもできない。


 いや、それ以前に……なぜ俺がミルティに攻撃されている?


「お前はパーティー追放だよ」


 俺の目に映ったのは、薄汚いアンドリューのニヤケ面だった。


「お前みたいな役立たずは、俺達の囮として死ぬのがふさわしい。前からパーティー全員で決めていたんだ。何かあれば、お前を囮にしようってなあ!」



 何を……言っているんだ?

 俺は、仲間じゃなかったのか?

 

 ウマが合わないとは思っていた。

 外れスキル持ちとしてバカにされようとも、耐えてきた。

 それでも身を尽くして、パーティーに貢献して来た。


 その末路が……これか?

 こんなのは、ただの殺人だ。

 俺は、殺されるほど嫌われていたのか?

 外れスキルを持っている、それだけのことで。

 大した理由もなく、殺されなければならないのか?


「待ってくれ、アンドリュー!」


「あばよ、キバ。死んでくれ」


 無情にも、目の前で扉が完全に閉まる。

 当然、ダンジョンの扉は部屋の中から開けることはできない。


 最後に見えたのは、アンドリューの、ミルティの、パーティーメンバーの、下卑た笑い顔だった。

 そこにかつての仲間に向ける、善の感情は一片たりとも存在しなかった。




「……ふざけるなよ」


 ふざけるな。

 こんな不条理が。

 理不尽が。

 許されて良いはずがない。


「俺は……負け犬なんかじゃない」


 ふざけるな。

 こんなところで死んで良いはずがない。

 あんなカスどものために、俺の命が消費されて良いはずがない。


 


 ――ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ。


 不快な音が響く。

 しばらく獲物を見失っていた巨大蜘蛛(アトラク=ナクア)だが、とうとう俺を見つけたようだ。


「俺は……死なない」


 生きて、あのクズどもに思い知らせねばならない。

 お前達が何をしたのかを。


 そのためには……目の前の化物に打ち勝たなければならない。

 特定災害級魔獣(モンスター)に、たった一人の力で。

 

 不可能?

 非現実的?


「ふざけるな」




ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな





 そんな常識は、いらない。

 俺を殺す思考は、必要ない。


 俺は今、超える。

 超えなければならない。

 人としての限界を。


「いくぞ、蜘蛛野郎」


 お前を――殺す。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


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クズの異界流儀
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