図書室 〜僕と彼女の物語〜
放課後、図書室へ向かう僕。
廊下の窓から赤い光が射し込んでいる。
もう、来てるかも…
体育委員会の会議があって、今日は少し遅め。駆け足で向かう。
図書室の扉を開けると、一番奥の窓際の席にメガネをかけた彼女の姿があった。
「遅いです」
不機嫌な顔で僕に言う。
「ごめん。今日は委員会があって…」
彼女は俯いて、広げていた本を読み始める。
僕も、彼女の隣に腰を下ろす。
二人で、もくもくと読書をする。これが僕らの放課後。
僕の名前は、羽生清処、高校二年生。
彼女の名前は、石月蓮観、高校二年生、副会長。
生徒会長より会長らしい彼女との出会いは一カ月前。
「あ、ごめんなさい」
僕にぶつかった石月が慌てて謝る。ばらばらと僕と彼女の教科書が床に落ちる。
「いえ、こっちこそ」
二人で教科書を拾い集める。
自分の教室に戻ってから、気づく。あ、これ僕のじゃない。
美術の教科書には別の名前が書いてあった。二年一組 石月蓮観。
一組の教室はもはや別世界だ。階は一つ上だし、特進クラスという秀才クラスだ。
そんな所に、馬鹿な僕が行くのか…。考えただけで、恥ずかしい。
が、行かないと返せない。僕は意を決して向かった。
「何か用かい?」
対応したのは、メガネをかけた、いかにも秀才君といった感じの男子生徒。
「ええーと、石月さんは…?」
「先ほど、どこかに行くのを見かけたが」
うわー、すれ違いかぁ。
引き返して別の機会にしようと思ったが、廊下を数歩行ったら石月さんと出会った。
「あ…」
彼女の手には僕の教科書が握られている。
「良かった。すれ違いにならなくて」
彼女が言う。
「なりかけたけどね…」
教科書を取り換える。
これで、僕と彼女の縁が切れるかと思ったのだが。
「あの、羽生君?」
図書室に本を借りにきた僕に、背後から声がかかった。
振り向くと、
「あ、石月さん。」
「あの、ちょっといいですか?」
そう言って、僕の制服の裾をひっぱて、人の寄り付かない『哲学』の棚に連れていく。
そして、向かい合う僕たち。
「あ、あの…」
もじもじとする彼女。窓からの赤い光のせいだろうか、顔が赤い。
そして、
「な…」
なに、どうしたのと僕が口を開きかけたると同時に
「私の読書友達になってください!」
なんじゃそれは。
でも、見るからに一生懸命な彼女の申し出を断れない。それに…
こうして僕らの読書友達生活が続いている。
そんなある日。
「ねえ、面白い小説みつけたんです」
放課後の図書室で石月は僕に一冊の同人誌を渡す。それは、一年前にうちの学校にあった文芸部のものだった。
「へえ、よくこんなの持ってたね」
「私、色々コネを持っているので」
うーん、さすが副会長。
「それで、この話なんですけど…」
「…これ持って帰って読んでいい?」
「えっ!」
石月が大きな声をだしたので、数人の生徒がこちらを向く。
慌てて彼女が口を押さえる。
「えっ、て何かあるの?」
尋ねる僕に首を振る。
「いいえ、何でもありません。どうぞ、持ち帰ってください」
家に帰ると早速読んでみる。
確かに彼女の言っていた小説は面白かった。前の部長が書いたもののようだった。
けれど、もう一編、気になる小説があった。
それは、体育委員の男子生徒が怪我をした女子生徒を手当てする話。
あれー、この話どっかで…
ピンッと頭の中で閃く(ひらめく)。そして、作者の名前を見る。
雉水久無
アルファベットに変換して、並びかえると…
うん、やっぱりそうだ。
「これ、面白かったよ」
放課後の図書室で石月に同人誌を返す。
「あ、うん…」
何となく残念そうな顔をした彼女に僕は言う。
「それでね、石月さんが言ってたのもよっかたんだけど、もう一編、気になるやつがあったんだ」
「えっ…」
「男子生徒が女子生徒を手当てする話」
ハッとして彼女がこちらを向く。
「あれ、石月さんが書いたんだよね。生徒会に入る一年前、文芸部にいたんでしょ」
「………」
無言。でも、それが、何よりの証拠。
「僕も石月さんのこと好きです」
彼女は俯いていたが、小さな声で、
「わたしも…」
あの小説の最後にはこんなことが書かれていた。
これは、私が一目惚れした男子の話です。
学校での場所、第二弾です。
よろしくお願いします。