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第9話 銀髪の少女

 赤髪の女性の言葉が孕む真意はすぐに明らかとなった。

 重厚な金属製の扉を引いて開けると、中にはめったやたらに豪奢な装飾が施された部屋が広がっていたのだ。

 所々苔むした煉瓦で穴蔵を補強しただけのような扉の外とはまるで別世界。

 そして何よりも驚くべきことに。

 部屋の壁には窓が設けられており、陽の光が入ってきているのだ。

 先程まで三条たちは確かに牢獄の立ち並ぶ地下深くにいた。

 それにも関わらず、扉一枚を隔てた先が地上に繋がっているなど本来なら(・・・・)物理法則をことごとく無視したありえないことではないか。

 ──そう、魔法さえ絡まなければの話だが。


「……魔法ってのはこんなこともできるのか、便利だな」


「対象として設定した物体の構造を自由自在に組み替える。それが例え城のような巨大な建造物だったとしても。おまけに対象として設定できる物体の個数に上限はない。──それがそのクソ女が所有している魔魂(アルマ)の能力よ」


 三条の呟きに答えたのは、忌々しいものでも見るような表情を浮かべた赤髪の女。

 彼女が顎で軽く指した方向へと視線を投げかけると、


「あらあら、クソ女とは酷い言い様じゃない。イレーネ、あなたが任務中に破壊したり燃焼させたりした道路や建造物をどこの誰が一々現場まで赴いてまで修復してあげていると思っているのかしら?」


 部屋の奥に、銀色の長い髪をシアンのリボンを用いて後頭部で纏めた碧眼の女性が一人で佇んでいた。

 濡れ羽色を基調とした洋服に身を包み、その開いた胸元には赤ぶちの眼鏡が掛けられている。

 一見すると大人びた様相の女性だが、イレーネと呼ばれた赤髪で高身長の女を見た後だとどこか背伸びをしてませた格好をしてみた女子学生感が否めない。

 というか実際背が低い。

 三条やマリンより背が低いことはおろか、自称その二人よりも歳上の小動物系低身長栗毛少女と競るレベルに低い。


「あら、見ない顔ね。御機嫌よう。もしかしなくてもあなたが黒と白を孕んだ灰色の無章(ヴォート)のくせに何の断りもなく勝手に魔法を使用したせいで牢屋送りとなった三条(さんじょう)悠斗(ゆうと)さんかしら?」


「っ!?」


 文字通り一瞬の出来事。

 三条が一度の瞬きをしている間に彼女の王室御用達の人形のような端正な顔が彼の目と鼻の先まで移動していたのだ。


 もしもここが戦場で彼女が自分に敵意を持つ存在であったのならば、確実に殺されていた。

 そう思うと、息が詰まりそうになる。


「無視? 無視なの? あたしは他の誰でもなくあなたに聞いているのよ。記憶を失って右腕まで失った不憫な青年はあなたですか、と」


 少女はどんな獲物を用いても確実に殺せる距離で駄々をこねる子供のように唇を尖らせる。


「……あ、ああ。そうだ。俺が三条悠斗だ」


「まあ、知っていたけどね。うふふっ、どうかしら、あたしの魔魂(アルマ)──《世界の改変者(ザ・モディファイア)》は。便利な能力でしょ?床の一部分を抜去して自分よりも後方に挿入するように構造を書き換えれば擬似的な瞬間移動だってできるのよ」


 そこまで言うと銀髪碧眼に濡れ羽色洋服の少女はその短くて細い華奢な指を三条の胸元にあてがった。


「何をするつもりだ……?」


「加えてあたしの能力の対象はあくまで『物体』。そこに個体・液体・気体の区別が無ければ生命・非生命の区別もない。つまりは、私の改変対象はこの世に存在する全てなのよ。そういう訳でまずは挨拶がてらユウトさん、あなたの大動脈と大静脈を入れ換えて差し上げましょう!」


 大動脈と大静脈では血管の壁がもつ厚さが大きく異なり、前者の方が後者よりも圧倒的に分厚い。

 その理由は至って単純で、大動脈程に壁がぶ厚くないと心臓の拍動によって勢いよく送り出された新鮮な血液の圧力に耐えられないのだ。

 要するにだ。

 銀髪碧眼の少女が本当に人体の構造をも改変できるとして彼女に大動脈と大静脈を入れ換えられた暁には待っているのは大ダメージ、なんてレベルではない。

 全ての血道の親とも言える血管が破裂したことによる確実な死。

 全身ありとあらゆる場所に散在している汗腺から嫌な汗が吹き出、バクバクバクバクと気を抜けば口から出てくるのではないかというほど心臓が早鐘を打つ。


「止めてあげなよ副支部長。ユウトが半ば死を覚悟した子鹿みたいな顔をしちゃってるよ」


 不意に聞き覚えのある爽やかボイスが銀髪碧眼ドS少女の戯れに横槍を入れた。

 三条が声のした方を見ると、壁際に設けられた豪華なソファーのような長椅子に、金色がかった茶髪に爽やかかつ柔和な表情を浮かべた好青年、つまりはカインが座っていた。


「うふふふ。ちょっとした冗談よ。帰ってきていたのね、カイン」


 少女は三条の胸元からそっと指を離す。


「ああ、ついさっきね。それとユウト。僕が野暮用でちょっと第一地区の方まで出向いている間に色々と厄介事を起こしたそうだね。事後処理用と隠蔽用の書類が大量に溜まっていて驚いたよ」


「カ゛イ゛ン~ッ! 面倒事を増やしちまったのは悪かったから助けてくれよ~~」


 全く見知らぬ三人に周囲を囲まれて四面楚歌ならぬ三面楚歌となっていた三条からすれば、以前道案内をしてもらった際に少しでも話したことのあるカインが来てくれたことは渡りに船であった。

 彼に上手く便宜を図ってもらえれば、この訳が分からない状況から解放されるかもしれない。

 しかし、人間万事塞翁が馬という言葉があるように良いことがあれば悪いことも起こるもので。


「頼ってもらってるところ悪いんだけれど、今回ばかりは立場上僕は無干渉を貫くことしかできないんだよね」


 三条の期待とは裏腹に、カインはバツが悪そうに右頬をポリポリと掻きながらそう言ったのだった。


「嘘だろっ!?」


「君を呼び出したのは支部長なんだろ?なら何も心配することはないよ。あの人は何だかんだ言って根っからの良い人だから」


「それでは閑話もここまでにして支部長が待つ隣の部屋に行くとしようかしら。このままずっと行かないでおいて彼が拗ねるのを待つというのも面白そうだけど、それだと話が進まないままなのよね」


「くそ、俺の身に何かあったらカインを恨んでやるっ。……ところで隣の部屋ってどうやって行けばいいんだ?入ってきた扉から出ればいいのか?」


 三条がその疑問に行き当たったのもそのはず。

 彼は今いる奥行きはあるが横幅のそこまでない部屋に入って来た際、ここを廊下ではなく一つの部屋として認識していた。

 何故なら、この部屋には入って来た扉以外の扉が取り付けてないからだ。

 それにもかかわらずカインに副支部長と呼ばれた銀髪碧眼に濡れ羽色洋服の少女は隣の部屋にて支部長が待っていると言った。

 ならば元来た扉を再び潜って隣の部屋とやらを探す他に道はないだろう。


「何を言っているのかしら?知能を下げるようにあなたの脳みそを改変した覚えはないのだけれけど……扉ならすぐそこにずっとあるじゃない」


 パチンと。

 銀髪碧眼の少女がフィンガースナップを一つならした途端のことだった。

 ガガガガゴゴゴゴゴ……と電動ドリルで岩壁に風穴を開けるような音と共に三条たちがいる部屋の最奥にある壁が形を変えていく。

 出っ張り、開き、曲がり、畳まれていく。

 残ったのは荘重な模様が複雑に刻まれた重々しい両開きの扉。


「ほら、あるでしょ?」


「分かるか、こんなもんっ!!」


 何でもかんでも魔法の力で片付けやがってと不平不満を言う三条のことを尻目に少女は両手で両開きの扉を押し開ける。


 そうして支部長室へと入って行った三条の前に広がっていたのは、先程までいた廊下のような豪華な部屋とは打って変わった、質素で落ち着いた色合いにアンティーク物なのかヴィンテージ物なのかは分からないが取り敢えず古そうな物品が置かれた部屋である。

 その部屋に入って真正面後方、来客用のガラス張りの長机と座るとふかふかのソファーみたいに尻が沈んで二度と立ち上がれなくなりそうな椅子を越えた先に、執務用のものと思われる大型の机に向かって何やら書類と睨めっこしている男がいた。

 三条が手を離したために支えるものがなくなった扉が独りでに閉まり、その音で男は書類から顔を上げた。


「ようやっと来たんやな、あんまし遅いもんやから待ちくたびれてもうたわ。……まあ、なんにせよ取り敢えず物事は挨拶から始まる言うし、よろしく頼むで三条悠斗クン」

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