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第5話 ヴォート

 三条の国民登録は存外にも早く終わり──といっても書類の記入はマリンと受付係の女性がほとんど終わらせたため、彼は何もせずに天井からぶら下がるシャンデリア状の証明を見つめていただけなのだが。


「これで国民登録は完了です。はいどうぞ、ユウトさん。」


 手渡されたのは五センチメートル四方ほどの小さなプレート。

 見たところ、両面共に文字が刻まれているわけでも触り心地が異なるわけでもなく、どちらが裏でどちらが表なのかすら区別できない。

 正真正銘紛うことなきただの金属板であった。


「やることも終わったことだし、役所に長居したところで何かいいことが特段起きるわけでもないからそろそろ行こっか……ユウト?」


 折角隣に座る少年に話を振ったのに、数秒の時を置いても返事が帰ってくる気配が感じられないことを訝しんだ少女──マリンは首を捻って三条の様子を観察する。

 当の少年は先程受付係の女性から渡されたプレートが気になって仕方がないようで、照明の光にあてたり指で表面を擦ってみたりと、謎の金属板の正体を暴くことに夢中で心ここに在らずといった様子だ。

 これに対してマリンは、


「ほら、後ろの人達がつかえちゃうから早く行くよ」


 そう言って三条の手からプレートを没収した。


「あっ、……ああ、そうだな、悪い」


 プレートを取り上げられて我に返った三条はおもむろに席を立つ。


⚫️


 役所を後にした二人は、街の中心部から少し離れた所に位置する広場へと来ていた。

 広場といっても、道が煉瓦やタイルで舗装されており中央には豪華で荘厳な雰囲気を醸し出す噴水が陣取っているようなものではなく、地面は自然体そのものであり草花がそよ風に吹かれて靡いている、そんなピクニック等のレジャーのためにあると言わんばかりのものである。

 ちらほらと散歩や日向ぼっこをしている人が目に入るが、せいぜい十人程度で閑散とした印象を覚える。


「ここら辺でいっか」


 そう言ってマリンが腰を下ろしたのは広場の端に他のものとは孤立して置かれている一脚のベンチ。

 マリンの隣に三条が座ると、彼女は懐から例の金属製プレートを取り出した。


「このプレートは、自分の総合魔力がいったいどのくらいのレベルなのかを示すエンブレムの基盤なの。これに魔力を込めると勝手にプレートの形が変わって、徐々に植物を型どってくれるわ。……まあ、物は試しって言うし、実際にやってみよっか!」


 彼女からプレートを受け取り、それをやる気満々とでも言うようにしっかりと右手に握る三条であったが、


「……なあ、マリン。魔力って一体どうやって操ったり込めたりすればいいんだ?」


 彼の魔法に対する知識は皆無に等しい。

 僅かに持っている知識と言えば、つい先日マリンから教わった"魔法には単純魔法と魔魂アルマの二種類がある"ということくらい。

 もちろん、魔法については全く持って門外漢である彼が魔力の扱い方など知る筈がないのだ。


「魔力の込め方って言われてもなぁ。感覚的なものだから説明のしようがないと思うんだけど……うーん、強いて言うなら、無心になって胸の奥底から自分の本来の力を引き出すイメージかな? それができたら魔力の扱い方が何となくで大体分かるようになると思うよ」


「……わかった、ありがとな」


 三条は三回ほど大きく深呼吸してから目を閉じ、脳から一切の雑念を消し去った。

 不思議と新たな雑念は湧いてこず、彼はいとも容易く完全な無我の境地に達する。


 ──気がつくと彼は色のない空間にいた。

 辺り一面どこを見ても、どれだけ遠くを見ても、色彩はなくこの無色の空間が一体どこまで続いているのか検討すらつかない。


「ここが俺の心の奥底ってやつなのか……? だとしたら俺はここからどうやって自分の本来の力とやらを引き出せばいいんだ……」


 ただ呆然と立ち尽くしていても仕方が無いので取り敢えず一歩二歩と歩みを進め、辺りを散策しようと思った矢先のことである。


 彼が三歩目に踏み出した足は地につかなかった。


 ゆっくりと目線を下に向け足下を見ると、そこに広がっていたのは大きめの水溜まり程度の大きさの闇。

 三歩目として前に出していた右脚は足首の付近までそこに浸かっている。

 その闇の水溜まりは圧倒的なまでの異質な存在感を放っていたが、妙なことに三条はそこから一切の不安感を感じられず、むしろ心が落ち着くと共に、この闇の底にこそ自分の求めているものがあるという確信さえ感じられた。


「一度入ったら戻ってこれない……なんてことはないよな。まあ、良からぬことがあってもことが起きてから考えれば良いか」


 闇の縁に腰を掛けてからゆっくりとその中へと入っていく。

 肩まで闇に浸かっても足が底に着く気配はない。


「よし、行くか……」


 意を決した三条は顔を闇の中に浸け、潜水ならぬ潜闇を始めた。

 闇の中は水中よりは多少抵抗が大きく動きにくかったが、水中とは違って呼吸することが可能であった。

 そして何よりも彼が驚いたのは、光。

 ──闇の奥底でぼんやりと何かが光っているのだ。


 どこか暖かさを感じさせるその光のお陰で前後上下左右が分からなくなる心配がなくなった三条は、どんどん深度を増して底に近づいていく。


(なんだ、あれは?)


 闇の底で光っていたのは、掌に収まる程の大きさしかない小さな石であった。

 その小石は炎とも魂ともとれるような形をしており、内部では微小ながら火花が線香花火のように光をはっしているため、ほんのりと温かい。

 それを手に取った三条は不思議と


(これが俺の魔法の素、魔素か)


 と、そう確信した。


 その刹那、小石の中の火花が光を増し、闇でできた水溜まりは疎か色を失った空間をも白く染め上げた。

 三条はあまりの眩しさに目を開けたままでいることがままならずその目を閉じた。


 ──彼がおもむろに閉じた目を開けると、彼の目には辺り一面の緑が写った。

 彼がいた場所は紛れもなく閑散とした広場であったのだ。


「……長い間集中していたけど、どう?魔力を扱うコツは掴めそうかな?」


「ああ、どうやら掴めたっぽいな」


 わかる。血液とは全く異なる何かが身体中を駆け巡るように流れているのが。

 わかる。この流れを構成しているものが自分の体内の魔素であり、この流れこそが魔力であることが。

 わかる。どうすればこの力を自分の意のままに操ることができるのかが。


「ハァァァァァァッ!!」


 魔素の流れを操り、右手──プレートを握っている方の手に魔力を込める。

 三条の魔力にあてられたプレートは波紋を浮かべながら振動し、ゆっくりとその見た目を変化させていく。


「その振動が完全に止まることが魔力の測定を終えた合図よ」


 数十秒がたった頃、プレートの振動がだんだん収まっていき、振動が完全に止まると同時に形の変化が止まった。


「ふぅ~、これで完了か。俺の魔力レベルはいったいいくつなんだっと…………は?」


 三条の手に握られ彼の魔力にあてられたプレートはその形を変化させた。

 だが、それが型どっていたものはもちろん最高位の樹やその次の華ではなく。

 かといって、蕾や草、芽でもない。

 だのに最も下の位である種ですらなかった。

 つまりは、彼のプレートはエンブレムの形だけをとりつつも、何の植物の文様も刻まれていないものへと変化したのだ。


「嘘……でしょ……?」


 その事に驚き目を白黒させていたのは何も三条だけではなかった。

 彼の隣に座っていたマリンは、ひったくるように三条から何も刻まれていないエンブレムを取ると、驚愕の表情を隠そうともせず、


「このエンブレムは無章ヴォートじゃない! 生まれて初めて見たわ。……しかも灰色って。ユウト、あなた一体何者なの!?」


 とそうまくし立てた。


「……言われてみれば俺のエンブレムはマリンのより少し濁った色をしてるな。んで、何が何だかわからないんだが、詳しく説明してくれないか?」


 三条の言葉で少し冷静さを取り戻したマリンは、そうねと前置いて口を開いた。


「まず、無章ヴォートっていうのは形式上種章セーメの下に置かれている魔力位なんだけど、これが意味するのは”単純魔法が使えない者”もしくは、”魔法を使うことが許されない・・・・・者”なの。それで、前者はエンブレムの色が白に近くて後者は黒に近いのよ。」


「ちょっと待ってくれ、ってことは……」


「うん、恐らくだけど、ユウトの場合は両方の性質を併せ持っているんだと思う……」


 こうして、三条は単純魔法を使うことができないだけならまだしも、魔魂アルマを使うこすら許されないと評価されたのであった。

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