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第36話 人の心って難しいよね。



 学校から帰宅後、今日は珍しく玲が俺の部屋まで遊びに来ていた。昔はよく来ていたけれどここ最近はあの1件以来頻繁には来なくなっていた。まあ来てはいたんだけど。


「ねえ、トモくん。まだ川崎さんには告白しないの? 」


 急に玲はそんな話題を切り出してきた。


「急にどうした? 今までそんな話題全然振ってこなかったのに」


 俺は少し焦りながらもそう返す。


「うーん。ここのところふたりの雰囲気が変わった気がしてね。だからちょっと聞いてみたの」


「そっか」


 まだけじめをつけてない気がするから。前に進めないそんな自分に歯痒い思いをいだきながら。そう考えながら、それでも俺は淡々とそう返す。


「玲」


「ん? なあに? 」


俺は玲にはきちんと話をしておかなければと思い、


「俺は千歳に好きだと伝えようと思ってる」


千歳に告白しようと思っていることを素直に伝えた。


「……うん。そっか」


玲は少し寂しそうに答える。


「だから……ごめん。玲のこと好きだった。いや、今でもまだその思いは少なくとも残ってる。それでももう一番は千歳なんだ。だから玲に告白してごめん。好きだと伝えてごめん。一番じゃなくなってごめん」


 あれだけ好きだった玲にこんなこと言うことになるなんて以前は思いもしなかった。だけど伝えなきゃいけないって。そう思って。


「ううん、私が振っちゃったんだから……こうなるのは当たり前。私、トモくんのこと一番好きだよ。今でも。振ったくせにそうなんだ。それでも私は怖くて恋愛はまだできそうにない。どんなに好きでも……怖くて付き合えない。一番好きなトモくんでさえも受け入れられなかったんだから」


 玲も俺に思いを素直に伝えてくれた。こんなに近くに居たのに交わらないふたりの糸。なんでなんだろうね。ほんと。


「こんなに近くに居てもわからないこといっぱいだな」


「ふふふっそうだね。人の心って難しいね」


 そう言いながら玲は大粒の涙を溜めて……


「いつまでもトモくんの一番でいたかったなあ……ほんと私ってわがままだなあ……」


「俺も一番でいたかった。大好きだったから」


 しばらくふたり無言だったけれど……


「トモくん……ちょっと胸借りていい? 」


 そう言って玲は言葉で許可を求めながらも了承も得ずに俺に飛びついてくる。


「もうこうやって胸借りたりはそうそうできないよね? 」


「んー。幼馴染としてなら貸せるとは思うけど……そうそうは無理になるかもな。一番は千歳だから」


「だよね。でも今日はまだ告白してないから……いいよね? 」


 そう言って玲は俺の胸で静かに泣き続けた。




 幼馴染としての関係はまだまだ続くと思う。

 終わらせたくないふたりがいるのなら。


 それでも男と女の関係は俺と玲の間では今日で終わり。

 終わりなんだって。


 そんな寂しさを抱えながら




 ただ泣き続ける玲の頭を俺は撫で続けた。


お読みいただき有難うございます。

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