女からのダメだし
恥ずかしながら、女性二人に肩を借りながら室内に戻ったおれは、そのままベッドに横になった。平和日本で、腹をこんなに強打されたことなどない。ある意味、体が驚いていた。
三十分くらい放置されていただろうか、どうにか落ち着いてきた。イリスさんが暖かいお茶を運んできてくれた。
「すみません。もう大丈夫だと思います」
半身を起こすと、まだズキリとみぞおちが痛む。
「休んでて下さい。あの子も手加減しないで。あと、あなたも無理なことは無理と言った方がいいですよ」
ごもっともな忠告だ。返す言葉もない。
ここは誰の部屋だろうか。女の部屋ではなさそうだ。おそらく、アウラの兄という人の部屋なのかも知れない。
やっと、立っても大丈夫なようになった。茶を飲み干して、カップを持って部屋を出る。居間にはだれもいなかった。
外に出ると、夕暮れの暖かい色味が空にかかっていた。
おれはこの家にいていいのだろうか。行く当てなどないが、ここにいたところでなにも出来ないのではないだろうか。
庭を少し行ったところの倒木に、アウラは腰掛けていた。身長はおれより若干低いくらいだが、細身の彼女のどこにあんな力があるのか不思議だった。木々の隙間を抜ける光を受けて、森の妖精のように輝いて見えた。話しかけるのが躊躇われた。
「もう大丈夫なの?」
おれに気がついているのだろう。こちらを見ないまま彼女は言った。
「ああ。もう平気」
「いくらなんでも弱すぎよ。あなた、男でしょ。よくその弱さで今まで生きてこられたわね」
女子にだめ出しされることは間々あるが、ここまでだめ出しされたことはない。
「しょうがないだろ。おれのいた世界には、少なくとも、おれの周りには戦いなんて存在しなかったんだから。逆に聞きたい。ここは、女でも剣を振り回さなきゃダメなのか?」
アウラが笑ったように見えた。
「自分で言うのも恥ずかしいけど、わたしはちょっと剣をかじった。みんながみんな剣を振り回すわけじゃないけど、隣町まで夜歩けば、それなりに物騒。兄と二人で使いをしたとき、何回か襲われたこともある」
「そりゃ怖いな」
「でも、その時は兄がいたから。もちろん、今はそんな物騒なところには行ったりしないけれど」
もっとアウラの話を聞きたかったが、それを遮るように、馬蹄の音が段々と近づいてきた。