いざ、尋常に。そして、一撃。
アウラは二本の木剣を掲げて見せて、好きな方を選べという。
どっちを選んでも結果が変わることがないと分かっているので、おれは迷わず手近な一本を取った。随分使い込まれている。握りの部分がまるでニスでも塗ったかのように黒くてかっていた。
盾も薦めてくるが、盾など使ったこともない。悪いが、構え方はおろか、持ち方すらしらない。盾は無用である、と言ってやった。
「大した自信ね」
「それほどでもないよ」
自信はある。絶対に勝てないという。
おれとアウラは10メートルほど離れて対峙する。彼女は盾を構え、腰を低く落としてこちらを伺っていた。
おれはまず剣道で習った正眼の構えを見せて、それから、時代劇でよく見る八相の構えをしてから、最後に上段に構えた。だが、この構えにどういう意味があるのか、構えているおれが知るよしもないという。
アウラは見たことのない構えに攻めあぐねているようだった。
ならば、こちらから参る!
おれは間合いを一気に詰め、上段に構えた木剣を思いっきり振り下ろす。
「チェストォォォッ!」
確かチェストは示現流だ。示現流がどういう剣術を使うのかは全く知らない。チェストと叫ぶことだけは知っていた。
案の定、おれの剣はたやすく盾で防がれた。そして、次の瞬間、おれはもんどりを打って地面に崩れた。
彼女としては特段意識したわけではあるまい。盾で剣を防いだときの、一連の流れとして突きを繰り出しただけだ。それは自然な流れなのだろう。
突きは見事におれのみぞおちを捕らえた。もし、これが木剣ではなく、鋭利な剣であったならば、おれの横隔膜は貫かれ、一撃であの世行きだったに相違ない。
「だ……、大丈夫?」
アウラが心配そうに、いや、驚きとともにのぞき込んでくる。心配すると言うよりも、獲物にどれくらいのダメージを与えたかを検証するかのように。
大丈夫ではないけれど、大丈夫だと答えようとして、おれは声が出ないことに気がついた。さらに、立ち上がろうとしても立ち上がれない。しばらく、ここで横になる。土の匂い、草の匂いが心地よいではないか。