日本は平和だったなぁ
外は陽がまだ照っていて暖かかった。こっちに来てから三時間ほどしか経っていないということが信じられない。
「本当に剣を使えるのですか?」
イリスさん心配してくれているのか、うつむき加減で言った。
「一応、お遊びみたいなところでしたが、剣道部でした」
「あまり、無理をなさらないでくださいね」
無理もなにも、ここまで来たら成り行きにまかせる以外あるまい。ケサラケラである。いや、むしろ、ケサラ、ケラケラケラケラ、みたいな。
「お二人で暮らしてるんですか?」
「はい。息子がひとりおりますが、先月から戦争に赴きまして、今は二人で暮らしています」
父親はいないのだろうか。二人で暮らしているということはいないのだろう。死んだのだろうか、それとも別れたのだろうか。気になるところではあるが、あまりぶしつけな質問をするのも気が咎められる。
「こんな平和そうに見える世界でも、戦争があるんですか」
おれは足元の小さな花を摘んで目線に掲げた。草木は自由に育ち、青空が広がり、澄んだ空気を持ったこの世界も、結局は人と人の争いがあるのか。
「あります。ヒサヤさんの世界では、戦争はないのですか?」
「もちろんありますよ。でも、おれの生まれた国は七十年間も戦争してないんです」
イリスさんが露骨に驚いているのが見て取れた。
「すごいです」
「ですよね」
七十年間戦争がないというのは、実はちょっとした自慢になるかも知れない。
おれは異世界に転生して、戦争のある世界に放り込まれたということか。なんだかやってられない気がしてきた。美女に囲まれていい気になってる場合じゃないかも知れない。知らない世界で、しかも、戦争に巻き込まれて人生を終わらすなんて冗談じゃないよ。
カラコト、と乾いた木材が打ち合わさる音がした。
振り返ると、アウラが二本の木剣と、二枚の盾を抱えるようにして持ってきた。
盾。使ったことない。
剣は日本刀のように反りのない直刀であった。柄は両手で握れるだけの長さがある。これなら剣道の要領でどうにかなるかもしれない。