表に出ろっ!
やってみれば分かるが、かるく数枚のカードをつまんだ状態で上から叩くと、最後に残るのは一番下のカードになる。
おれは精神を集中するフリをして、アウラの指に挟まれたカードを叩いた。
ぱらりと上の二枚が落ち、アウラの指には一枚のカードが残った。
「見てみな」
アウラはカードを確認する。それは見事に、オレンジの花のカードだった。
「うん。このカードであたり」
もっと驚くかと思ったが、意外にあっさりとした反応だった。イリスさんもちょっと戸惑ったような顔をするだけだ。
「びっくり、しなかった?」
「これって、魔法なの?」
魔法なの? 魔法なわけないよね? 魔法じゃないにきまってるよね、という苛立ちが言外に含まれていた。
「いや、魔法とはちょっと違う」
「手品だよね」
「まぁ、そうだけど」
「あの、なんていうか、冗談だよね」
アウラが引きつった笑みを浮かべる。
冗談。冗談と言えば冗談だ。手品そのものが冗談以上のものではないから。一体おれはなにを期待されているのだろうか。
イリスさんまで、悲しげな瞳を隠すことが出来ないでいるようだ。おれは彼女まで失望させてしまったと言うことか。なにもしていないのに。いや、手品しかしていないのに。
「……ごめん」
謝る筋合いはないだろうが、なんとなく、おれは謝ってしまった。
「バカにしてるのっ!?」
「いや、してないよ」
怒りのやり場を求めるようにアウラが机を殴る。おれは不覚にもビクリとしてしまう。怒りに眉を歪めても、アウラはやっぱり美しかった。美人は得なり。
「きみさ、魔法は使えないけど、剣はすごく強いんだよね?」
もともと上から目線であったが、さらに目線が上昇しているようだった。
剣はすごく強いんだよね? 強いに決まってるよね? 弱かったら許せないんだけど?
そういうふうにしか聞こえず、おれは恐る恐る頷くしかなかった。
「ああ、剣は強いんだ。よかった。じゃ、先に外で待ってて」
つまり、「表に出ろ」という意味だ。男にだって言われたことないのに。