チート能力を見せるようにせがまれて その1
「じゃ、すみません。何日かお言葉に甘えてもいいですか」
もちろんだよ! とアウラ喜び、イリスさんもほほえんでくれた。
アウラは後ろの抽出から巻紙を取り出して、羽根ペンとインキ壺を用意した。
「いま、滞在許可書作るから、ちょっと待ってね」
紙にさらさらとなにやら書き付ける。おれはその文字を読むことは出来ない。滞在許可書と言っていた。なにかの書類だろうか。
「異世界からやってきた人を泊めるときは、一応その許可書を提出しなきゃならなくてね。そういう決まりなんだよ。ここにサインして」
アウラは巻紙から書いた部分を切り取ると、白く細い指で書類の一番下をさした。そういう決まりなら仕方がない。おそらく、アウラの名前が横に書いてあるのだろう。おれはアウラの名前に並ぶように自分の名前を書く。
名前を書いている途中、イリスさんの顔をチラッと見たら随分表情が固かった。アウラも妙に真剣なまなざしを向けている。
おれは自分の名前を書いた書類を見て、ここには一体なにが書かれているのか。少し不安になった。が、彼女たちをもう信じるしかない。
名前を書き終えると、見間違えだろうか、紙が青く光ったような気がした。
イリスさんがぼそっと、
「発動しました」
と意味の分からないことを言った。
「ありがとう。これでもう大丈夫だよ」
アウラは唇をすぼめフーとインクに息を吹きかけて、乾いたのを見計らうと、クルクルと円筒形にして紐で結わいた。
「で、ヒサヤ。あなたどんなチート能力があるの?」
そう訊ねるアウラも、イリスさんも。瞳がらんらんと輝いていた。
チート能力。ぐいっと意識を集中すると視界の中にうっすらとおれのステータスが浮かぶ……ことはなかった。
「いや、おれそういうのないし」
「またまた、謙遜しちゃって」
しがない史学科専攻のおれに特殊な能力などあろうはずもない。
「謙遜なんてしてないよ」
気まずい沈黙が流れる。
アウラもイリスさんも動きが止まってしまっている。おれは仕方なく、目の前の茶を啜ったが、意識しての茶を啜る行為というのは随分と精神をすり減らすものだった。
「……もったいぶらないでよ。本当はなにかあるんだよね?」
「わたしからもお願いします。ぜひ、異世界のお力を拝見したく」
アウラのフレンドリーな頼み方なら断りようもあるが、女神のようなイリスさんに真顔で頼まれたのでは断るに断れない。
今のおれに出来ることは……、と部屋の中を見回した。