ありがたいことに宿泊を提案される
「ねぇ、おなかとか減ってない?」
アウラははじけるような笑顔で聞いてきた。
正直腹は……。減っているような気もするし、べつに大丈夫なような気もする。でも、この世界の食べ物というのを食べてみたいような。一口食べてもとの世界に帰りたくなったらどうしよう、などと心配しつつ、
「はい」
と答えていた。
イリスさんがお茶らしきものを入れてくれた。
味は……、紅茶と緑茶を足して割ったような。花の香りも微かにして、暖かくて、おいしい飲み物だった。これなら、食べ物も期待できるかも。
がっつり食事が出てくるのかと思ったら、焼き菓子が出てきた。マドレーヌ? 一口食べてみた。甘い。美味い。
「美味い」
思わず呟く。
「ありがとう」
「え、アウラさんが作ったの?」
「そうだよ」
照れるでも誇るでもなく、当たり前のように答える。この世界じゃ、完成した食べ物を買う、そういった習慣はないのかも知れない。
「もう少し詳しく、こっちの世界に着たことを教えてくれませんか」
イリスさんが恐る恐るという感じで訊ね。
詳しくもなにも、おれは気がつくとこの家の前にいて、そして、ちょっと森を散歩して、湖が見える丘で休んで、ここに来ただけだ。そう正直に答えた。
「じゃ、ヒサヤは行くあてないんだね」
「まぁ。そうだな」
「それは可哀想だ。じゃ、うちで泊めてあげてもいいけど」
ものすごい善意、と解釈していいのか、それとも、うまい話には裏があると解釈した方がいいのか。アウラの様子を見ていると、どうも後者のような気がしてならない。
こんな美人母娘のもとで、いきなり寝起きを始める。話がうますぎる。
もちろん、見た感じ、話した感じ、アウラも、イリスさんも悪い人には見えない。しかしだ。本当にその言葉に甘えていいものなのだろうか。
「ありがたいんだけど、そんな突然押しかけたみたいで、なんか申し訳ないし」
「平気だよ! だって、どこ行くの?」
そう言われると、どこも行く当てはない。