清水こそラスボスなれ
「ちょうど計画通りね。この調子なら、昼過ぎには王都に付けそう」
彼女は地図をひろげて言った。
明るくなり、山の地形がわかるようになったので、おれたちはわき水が流れる音に誘われるように近づいていって、朝一番の水を堪能する。緑の木々に囲まれ、爽やかな風が吹き抜ける。快い水音を立てる小川に、さっと両手を差し込めば、キンとした冷たさが肌から伝わる。掌に掬った水を口に含めば、一夜の疲れはたちまちに癒やされる。
こんな美味い水は飲んだことがない。
が、この水、超衛生都市日本に生まれ育ったおれにはまさに不倶戴天の敵、最終ステージの大魔王的ラスボスなり。
やばぁい。
「す、すまん、アウラ、ちょっと先に行っててくれ」
「ヒサヤ? どうしたの?」
「いや、べ、べつに、どうもしない」
「うそ。顔、青いよ」
そんなやりとりをしている間に、あいつがおれの城門に集中砲火を浴びせてきた。おれは括約筋を一切の惜しみなく全力投入する。
「大丈夫、がちで、大丈夫だから」
アウラはこともあろうにおれに近づいてきて、おれの額に手を当てる。
「大丈夫じゃないよ。汗も凄いし」
今日が三日目だろ。今日が最後なんだ。今日が最後なのに、美少女を目の前にして、名実ともに汚名をぶちまけて戻るなんて嫌すぎる。
おれはアウラの手を払いのけて、草むらに駆け込んだ。枝が頬や手首を引っ掻き削ろうとも、足を止めることはせずに、
「アウラ! 先に行っててくれ! ちょっと腹壊しただけだ!」
覗かないで欲しい。男だってケツは見られたくないのだ。
走っている最中、一人、二人と城門を突破してくるやつらがいた。だが、こんなやつら、紙で拭き取ればすぐに片付く。ただ、問題は城門を突破されたときだ。その時は、下着からなにまで全てに色と匂いが付着する。即ち、それはアウラに二度と会えないということを意味する。
「もう! 大丈夫!?」
「大丈夫! ほんと、先行ってろ!」
彼女に覗きなどという下衆な趣味がないことを祈り、おれは草深い茂みでズボンの紐をほどく。
しかし、このズボン、お兄さんのかなんだか知らないけれど、簡単に脱げない……。いま、簡単に脱げないということは、致命傷を負いかねない大ピンチで、おれの括約筋はもはや風前の灯火であり、すでに、10人20人くらいの敵兵はじわりじわりと城門を突破して、そろそろ下着を洗うレベルに達していた。
ほどこうと、焦れば焦るほど、紐は固く結ばれていく。
「ちくしょうっ!!!」
おれの祈りをあざ笑うかのような紐に怒りをぶつけ、力尽くでズボンを下ろす。




