荷物持ちかよ
アウラから、晩飯を食い終わったら外にいろ、という指令を受けていた。おれはちょっと涼んできます、と館を出て夜風に当たっていた。昨日は疲れていてすぐに眠ってしまったからわからなかったけれど、外に出てみると闇の深さに驚くばかりである。
館の灯りも小さな燭台の炎しかない。昔の人間が夜を怖れた理由がよくわかる。この闇夜の中を歩き続けようというのだろうか。そんなことが本当に出来るのか心配になった。
どのくらい待っただろうか。ぬっと黒い影が目の前に現れた。
「これ、持って」
アウラは闇を乱さないようにささやく。
おれは随分大きな荷物を背中に抱えた。アウラは手ぶらだった。つまり、おれは荷物持ちなのだ。なんでもすると言ったが、まさかさくっと荷物持ちにされるとは。
彼女はなんら迷い無く闇夜の中にズンズンと分け入っていった。
「おまえ、見えるのか?」
「はぁ?」
見えるから進んでるんでしょ、と言外に言っていた。
おれもようやく闇夜に目が慣れてきたのか、道のシルエットだけが仄かに浮かぶ。結局、その程度しか見えないので、飛び出した木の根に躓き、もんどりを打ってひっくり返ってしまった。
「ちょっと、なにやってるの?」
「ってか、おまえ、この荷物の中身なんなんだよ?」
半分は荷物のせいで転んだ。大きさの割にはそれほど重くはないのだが、なにせ、大きさが大きさだ。
「え、中身? 着替えとか、着替えとか、着替えだけど」
どこの世界も女の荷物が多いというのは共通していると言うことだろうか。
ところで、イリスさんが派遣するというものは付いてきているのだろうか。その気配が全くしない。もっとも、バレてしまっては尾行にならないか。
「これだけ闇なんだから、山賊とか普通にいそうだな」
「普通にいるわよ。灯りを付けたら、それこそ蛾のようによってくる」
本当にいるのかよ……。それで灯りを消して移動しているって訳か。
「じゃ、音もまずいんじゃないか」
「のわりには、あなた随分普通に喋ってくれてるわね」
おれは口を固く結んだ。そういうことはもう少し早く言って欲しい。
とにかく、この闇を何事もなく抜けられるように、祈りながら歩くしかなさそうだ。今日はイリスさんの目をごまかすために夜に抜けたが、明日からはちゃんと昼間に歩くのだろう。わざわざ夜歩く意味がわからない。
しばらく歩いていると、アウラが不意に止まった。そして、手でおれを制する。
「どうした?」
と聞くと、口元に指を当てて、喋るなと言う。
アウラが指さした方を観ると、仄かな灯りが漏れていた。
「たぶん、ろくでもない連中ね。どうする? 迂回する? それとも突っ込む?」
そんなの考えるまでもない。
「迂回するに決まってるだろ」