彼女の計画
スマホを返してもらったとき、電池残量はすでに18%まで減っていた。すぐさま電源を落として、電池の減りを回避する。
「ただ、歩いて行くか、それとも馬で行くか、どうしようかな」
アウラは机の上の地図に目を落として、独りごちた。
「これは?」
「地図。この国と、その周辺のね」
「縮尺は?」
「よくわからないけど、端から端まで歩いて10日ってところ?」
たしか、江戸と京都が歩いて15日間くらいだから、結構大きな地図だな。
「地図なんか見て、どうするの?」
「あなたには関係ない」
関係と言えば関係ない。あと二日で帰るのだから。ただ、アウラの考えていることは手に取るようにわかる。
「お兄さん、探しに行くんだろ」
ギロリと睨まれた。アウラはすぐに視線を地図に戻し、不機嫌そうに、
「そうだけど」
「お兄さんがいなくなったっていうの、どの辺なの?」
アウラは無言で地図の一点を指さす。だが、現在地がわからない。
「おれたちは今どこにいるの?」
アウラはもう一点を指さした。指さきから苛立ちが放出されている。
その距離、歩いておよそ三日ほど。馬なら人間の三倍の速さで移動できると聞いたことがある。ならば、一日ということか。
「ヒサヤ、いい。このことはお母さんには絶対に内緒。言ったら二日後といわずに、今すぐに違う世界に送ってあげるから」
アウラのいう違う世界とは、十中八九あの世ということだろう。
「言わないから……、おれも連れて行けよ」
はっと彼女はこちらを見た。
そう。この世界まで来て、ただ帰るのはあまりにも不甲斐ない。美少女とちょっとした冒険を堪能したって罰は当たらない。
「なにか役に立てるかも知れないだろ」
「ありがとう。ヒサヤ」
そんなあっさりと、神妙に感謝されるとどこか調子が狂う。
「お、おう。大船に乗ったつもりでいろ」
「まぁ、泥船じゃないことを祈るわ。それに、あと二日しかない。対して役には立たなさそうだけれども、いないよりはマシって感じ」
そういうこと口に出すのではなく心の声で言って欲しかった。
「で、出立は?」
「今晩」
「了解」
だんだん異世界っぽくなってきた。ただ、あと二日でどこまで行けるのだろうか。せっかく面白くなってきたのだから、やっぱりあと二日などというのは止めて、もう一回契約を結び直そうか。
しかし、彼女はどうやってお兄さんを探し出すつもりなのだろうか。そんな当てがはたしてあるのだろうか。
「で、どうやってお兄さん探すつもりなんだ?」