この世界でスマホが出来ること
朝食は簡単なものであったが美味であった。この世界ではこういう簡単なものでも、作るのには相当手間暇がかかるのであろう。感謝しつつ頂く。
食事が終わるとアウラに呼ばれた。
これが貴族の娘なのだろうか、部屋は相当に散らかっていた。まるで男の子の中学生ノリの部屋だ。剣が数振り、無造作に壁に立てかけられ、その他にも槍、木剣、盾などが散らかっている。よくわからない資料も床にぶちまけられている。なにか野戦の司令部のようだ。中央の机には地図らしきものがひろげられているし。
「かたしてやろうか?」
「余計なお世話。それより、さっきのあれ、見せて」
スマホのことだろう。充電の残りはあと20%だ。ゲームとかはしないで、電源を切りながら使えば、あと二日、充分もつ。
アウラに先ほどの写真を表示して渡して、指で擦れば次の写真が見られることを教えた。
「不思議ね。どうなってるの?」
といいつつ、アルバムの写真を繰っていく。
「これ、ヒサヤがもと居た世界?」
「そうだよ」
アウラはくすくすと笑いながら、
「なんかおかしい。変な建物。食べ物は美味しそう」
などと、飽くことなくおれのアルバムを眺めていた。
「自慢じゃないけど、おれのいた世界は文明が発達している。例えば、アウラが今手にしている機械はほぼ全員がもってて、もってるやつ同士は会話とかも出来る」
「へぇ。よくわからないけど、やってみて」
「いや、だから、ここは電波がないから」
「じゃ、なにが出来るの?」
なにが出来るのだろうか。スマホのアプリを眺めて思案する。
マップも意味ない。天気もダメ。LINEもつかえない。ゲームは出来るかも知れないが所詮ゲーム。アウラが使えるアプリは……、
「これ、すごいぜ。もって歩いてみな」
アウラは言われたとおり、部屋の中を歩いた。
「画面の文字が変わってるわね」
そうか。アウラは数字がわからないのだ。
「その画面に映ってるのは数字なんだ。おれの世界の。で、一歩歩くごとに、一ずつ増える。つまり、それを起動して歩けば、自分が何歩歩いたかわかるっていう機能だ」
言っていて、恥ずかしかった。冷や汗が流れてきた。結局、文明の利器スマホも、電波がなければただの万歩計。
おそるおそる、アウラを見ると意外に驚いた様子で、
「この数字の読み方って、わたしでもすぐに覚えられる?」
「ああ。簡単」
「凄いじゃない。何歩歩いたかわかれば距離がわかる。いちいち何歩歩いたか数えなくて済む」
「よろこんでもらえて嬉しいよ」
電波さえあれば、ネットさえつながれば、本当のスマホの力を見せつけてやることができるのに、悔しい。