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二日目 水浴び?

 香ばしい小麦を焼くようなかおりに誘われて目が覚めた。外からは眩しい白い光がカーテンの隙間を縫って差し込んでいた。


 結局、風呂とかには入ることなく昨日は眠った。下着姿で眠ったので、昨日の服を着ようと思ったら、畳んでおいた場所におれの服はなく、代わりに見慣れない服が畳まれていた。


 ひろげてみると、やっぱり、こっちの世界の服だった。デザインがアウラやイリスさんが着ている物に似ている。おそらく、お兄さんの服なのだろう。おれは、その服に袖を通してみた。


 サイズ的には結構ゆとりがある。要所要所をボタンで留めたり、紐で結んだりするのでゆるいということはなかった。


「おはようございます」


 イリスさんは朝食の準備をしていた。早朝の澄んだ光の中に浮かぶ彼女は、夢のように美しかった。だが、これは夢ではないのである。あと二日で帰るのがちょっと残念に思えた。


「おはようございます。よかったです。それ、着られて」


「これ、アウラのお兄さんのですよね?」


 イリスさんは頷いた。


「どうです? 似合いますか?」


「ええ。お似合いですよ。その恰好なら誰かに見られても変に思われないでしょう。もう少しご飯が出来るまで時間がかかりますから、外の空気でもすっていらしたらどうですか。すこし歩いたところに泉があります」


 そこで顔でも洗ってこいと言うことだろう。礼を言って外に出ると、突き抜けるような青空に迎えられた。風薫るとでもいうのだろうか。からっとした心地よい風が吹き抜けた。


 いろいろな洗濯物と一緒に、おれのリーバイス501LVCが吊され風に揺られている。自慢のLVCもこちらではなんの意味もなさないのだなぁ、となにかひとつ悟った気がした。


 泉に行けばアウラが水浴びをしていたりして、などと昨日の疾しい想像をぶり返しながら泉に到達したが、悲しいかなだれもいなかった。


 泉は直径10メートルほどの大きさで、水は驚くほど澄んでいた。飲めるのではないか、と思うほどであったが、ここで腹を壊してあと二日を下痢で過ごすのは悲しすぎるので飲まないでおいた。顔を洗い、口をすすぎ、館に戻る最中、寝起きで髪の毛が跳ねているアウラとすれ違う。


「おはよう」


 と声をかけると、アウラは眠そうな眼でこちらをながめながら、


「水浴びはしなかったの?」


「え、あそこで水浴びしていいの?」


 彼女はやはり眠そうに頷いて、そのまま歩いて行ってしまった。


 いま泉に戻れば彼女の水浴びを拝むことが出来ると言うことか、という誘惑が、おれをこの場所から動けなくさせていた。戻るべきか、進むべきか、倫理的な選択はひとつしかないはずなのに。

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