イリスさんに話してしまう
竈の炎もどうにか安定してきた。
イリスさんは色々切ったり、煮たり、焼いたりしている。本当にアウラの手伝いがなくて大丈夫なのだろうか。
「アウラ、呼んできましょうか?」
「いえ。大丈夫です。ヒサヤさんも手伝ってくれているので」
「おれなんか全然役に立ってない感じで……。むしろ足引っ張ってませんか」
「そんなことありませんよ。助かってます」
お世辞でもそう言ってもらえると嬉しい。が、彼女はどうも他に何か話したいことがあるかのように、唇が戸惑っていた。
「あの、ヒサヤさん。なにか聞いていませんか。アウラから」
ド直球な質門でおれはたじろいでしまった。それがまずかった。彼女はおれが知っていることをわかったらしい。
「先ほど王家の使いが参ったのを、遠くからですが見ました。なにか当家に伝えたのでしょう。アウラがあのように部屋に下がってしまうと言うことは、おそらく、あの子はわたしに伝えたくないことを聞いた。そうでしょ?」
そこまで言われてしまってはもはやとぼけることも出来ない。
おれは、アウラには悪いと思ったが、お兄さんのことをイリスさんに話して聞かせた。
アウラのように取り乱すかとは思ったが、イリスさんは気丈だった。
「いえ、それくらいでよかったです。わたしはあの子の死も考えていましたから。あの子はまだ死んでいない。それは分かるのです」
「すみません。おれがなにも力になれなくて。なにか、もっと、無敵みないな能力があれば、みなさんのお役に立てたかも知れないのに」
アウラさんは再び手を動かし始めた。そして、鍋に入っているスープを、ほんの少し小皿に移してそれをすすった。味が決まっていたのだろう、ふと表情を和らげた。
「いえ。あなたはなにも悪くありませんよ。謝る必要などありません。それに、まだ役に立たないと決まったわけじゃないじゃないですか」
「はい。おれで出来ることがあれば頑張りますから」
とは言ったものの、先ほどアウラと契約を解除して、おれはあと三日しかこの世界にいられないのだった。